2018年8月26日日曜日

腰痛とは?

腰痛症について正しく理解する
 
腰痛のリハビリ治療について、わかりやすく解説していきます。

腰痛の原因を探る診断チャート

腰の痛みの原因に対する診断フローチャート
腰の痛みを検査する場合は、上記の診断チャートに従いながら診断を進めていきます。
まずは単純X線撮影(レントゲン写真)を行い、骨折などの所見が見当たらないか、脊椎に変性がないかを確認するところから始めます。次に神経症状の有無を確認し、もしも感覚障害や筋力低下、反射異常など、神経障害が認められるようならMRI撮影を行います。単純X線では神経や軟部組織が映りませんので、MRI撮影にて神経の圧迫(椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症)があるかを確認します。画像検査で問題が認められず、腰痛を起こしている原因が特定できない場合を非特異的腰痛症といいます。
 

整形外科疾患以外の腰痛症

前述した診断チャートは、あくまで整形外科疾患であることを仮定した場合の腰痛症の鑑別方法です。
しかし実際には、がんの脊椎転移や内臓障害(腎臓や膵臓)でも腰痛は起こるため、それらの疾患は確実に鑑別する必要があります。
そのために提唱されている方法が「レッドフラッグサイン」であり、以下の7つの項目のどれかに該当するようなら精査が必要となります。
  1. 20歳以下または55歳以上
  2. 時間や活動性に関係のない腰痛
  3. 広範囲に及ぶ神経症状
  4. 原因不明の体重減少
  5. 癌、ステロイド治療、HIV感染の既往
  6. 1ヵ月以上改善のない腰痛
  7. 発熱
上記に該当する場合は、重篤な疾患が隠れている可能性が考えられるため、画像検査や血液検査などの精査が求められます。

非特異的腰痛症の概要

医師の診察および画像検査(X線やMRIなど)で腰痛の原因が特定できるものを特異的腰痛症、特定できないものを非特異的腰痛症といいます。
腰痛の約85%は非特異的腰痛症に分類されることから、ほとんどの腰痛症は原因組織が特定できない状況にあります。
非特異的腰痛症の80%以上は3ヶ月以内に自然寛解することが知られており、臨床的には「命に危険のない疼痛」と考えられています。
しかし、一旦痛みが落ち着いたとしても、1年以内の再発率は約80%と非常に高いことが報告されています。
割合

腰痛の原因別分類

非特異的腰痛症特異的腰痛症
椎間板症腰椎椎間板ヘルニア
椎間関節障害腰部脊柱管狭窄症
仙腸関節障害脊椎圧迫骨折
筋筋膜性腰痛症神経由来(脊髄腫瘍、馬尾腫瘍)
ぎっくり腰内臓由来(腎尿路系疾患、婦人科疾患)
心因性腰痛症血管由来(腹部大動脈瘤、解離性大動脈瘤)

腰痛の85%が原因不明な理由

腰痛の85%は原因不明といわれていますが、何故これほどまでに原因がわからないのでしょうか。
その理由のひとつに精密な検査が実施されない背景があります。
医師が腰痛患者に実施する検査は概ね決まっており、①問診、②画像検査(単純X線やMRI)、③徒手的な神経検査の3つです。
しかし、この3つの検査だけで特定できる腰痛症は全体の15%程度であり、その他の原因を特定することはできません。
そして、そこで引っかからない腰痛症は原因が不明とされて、「非特異的腰痛症」という診断名が付きます。
非特異的腰痛症
なぜ残りの85%の腰痛の原因を精査して特定しないのかと思ったかもしれませんが、ここにも理由が存在します。
前述した検査で発見できる15%は、重大な症状を引き起こす可能性がある腰痛症であるため、ここは絶対に鑑別する必要があります。
しかし、残りの85%は重大な症状を起こすことはほとんどありませんし、その中の80%は3ヶ月もしたら自然治癒します。
なので、医者が忙しい時間をつかって、わざわざ原因を特定する必要がないというわけです。
それが結果的に腰痛の85%は原因がわからないといわれる所以になっており、腰痛症を軽くみられることにつながっています。
腰痛の85%が原因不明な理由

骨盤の歪みと腰痛は関係ない

よくテレビで整体師が骨盤の歪みが腰痛の原因と得意げに語っていますが、実際は骨盤の歪みや脊椎の彎曲と腰痛に因果関係はありません。
そもそも、人間の体は左右対称にはできておらず、最大の臓器である肝臓などの重みによって、ほとんどのヒトの骨盤や背骨は歪んでいます。
歪みと腰痛の関係性については、今より50年以上も前から幾度となく研究されてきており、関係がないと結論づけられています。
なので、腰痛のすべてを骨盤や背骨の歪みに直結しているような治療家には要注意であり、整えたから治るという保証はどこにもありません。
骨盤の歪みと腰痛

レントゲンを見ても痛いかはわからない

通常、人間の背骨は横から見たらS字にカーブしています。
S字の角度と腰痛の関係性を研究した論文では、どの角度においても腰痛患者の割合は有意差を認めませんでした。
また、事情を知らない医師2人にレントゲン診断を行ってもらった実験では、医者でも背骨を見ただけでは腰痛患者を判別することは不可能でした。
これらの研究結果からも、レントゲンなどの画像診断がどれだけ痛みの評価としては不十分であるかが理解できるはずです。
正常なS字カーブ腰椎前弯の低下腰椎前弯の増加
脊椎彎曲①脊椎彎曲②脊椎彎曲③

問診と徒手検査の重要性

腰痛を診断する上で大切なのは、画像診断よりも問診や徒手検査です。
どのような場面で痛みが出現するか、神経症状はあるか、背骨や筋肉の状態はどうかなど、目で見て触れることがなによりも大切です。
腰に痛みが出現していたとしても、その原因が肩や膝にあることも珍しくありません。
本当に素晴らしい治療家というのは、腰だけを診るのではなく、全身を診ることができる人です。
そのためには、原因となり得る部分を幅広く拾い上げ、どこに一番の問題点があるかを見極めることが大切です。
膝関節の拘縮が腰痛の原因となっている例

腰痛と遺伝の関係性

シドニー大学の双子を対象とした研究では、慢性腰痛の有病率は遺伝的に有意であることが示されています。(遺伝率32%)
また、脊柱管の広さなども遺伝することがわかっており、親が腰部脊柱管狭窄症を発生しているケースでは、子供も先天的に脊柱管が狭小化している場合が多いようです。
身長の高い低いが遺伝するように、ヒトの骨格は親からの遺伝的な要因が非常に大きいものです。
ですので、親が腰痛を患っている場合は、子供も腰痛となる可能性は非常に高くなります。
腰痛と遺伝
また、脊椎の椎間板は加齢により変性しますが、変性に関与する遺伝子CHST3が発見され、腰痛が遺伝することはさらなる根拠を持つようになりました。
遺伝の影響は必ずしも大きいものではありませんが、事前になりやすい病気を知っておくことで対策をうつことも可能です。

仕事環境で腰痛が出現する

腰痛の発生には遺伝が関係していますが、それよりも重要なのは環境要因です。
職業別の腰痛有病割合においては、作業中に中腰や体幹の回旋を伴う作業、定期的に姿勢を変えることのできない環境などが腰痛の発症頻度を高めることが報告されています。
椎間板内圧②
上の図を見ていただくとわかりますが、椎間板内圧は立位前屈(中腰)や座位前屈で上昇します。
この姿勢は清掃業や運輸業、介護の仕事などでとる場合が多く、これらの仕事では比較的に腰痛持ちが多い傾向にあります。
また、職場における心理・社会的因子が腰痛に深く影響することが報告されており、とくに以下の5つが腰痛発症と強い関連があることを指摘されています。
  1. 仕事に対する満足度が低い
  2. 仕事が単調である
  3. 精神的ストレス(人間関係が悪いなど)
  4. 仕事量が多い
  5. 仕事に対する能力の自己評価が低い
しかしながら、腰痛があるからといって気軽に仕事を変えるわけにはいかないので、その環境の中でどのようにコントロールしていくかを考えることも大切です。

年齢や性別で腰痛の原因は異なる

整形外科学会の調査では、日本人の腰痛有病割合は20-60代で25-30%、70代以上では35%となっています。
男女で発生のピークが異なり、男性では30-50代で多いのに対して、女性では60代以降に増加することが特徴的です。
理由として、女性では閉経後に骨粗鬆症が急激に進行しますので、その後に発生する骨の脆弱性や軽微な圧迫骨折が腰痛を増加させています。
男性の場合は、比較的に骨粗鬆症となりにくいことや、仕事をやめてからは重労働が減ることから加齢につれて増加する傾向はありません。
その代わりとして、椎間板の変性が進行しやすい中年期に腰痛が多くなり、椎間板ヘルニアも女性より好発しやすいです。
また、家庭や仕事上での役割やストレスが最も大きくなる30-50歳に発生するケースが多いため、心理面からの影響も推察されます。

腰痛の好発年齢(原因別)

若年者中年者高年者
椎間関節障害椎間板ヘルニア脊椎圧迫骨折
腰椎分離症椎間板症脊柱管狭窄症
強直性脊椎炎ぎっくり腰腰椎終板炎
筋筋膜性腰痛心因性腰痛症筋筋膜性腰痛
椎間板ヘルニア仙腸関節障害脊椎・脊髄腫瘍
筋筋膜性腰痛内臓由来性連痛
血管由来性腰痛
 
【脊椎の動きで原因部位を特定する】
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.002腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.003
 
 

筋膜性腰痛の概要

筋膜と関連痛
筋膜は全身を包んでいる膜状組織であり、そのどこかに高密度化が発生すると、高密度化している場所または離れた場所に痛みを起こします。
筋膜性疼痛の発生原因
筋膜が原因で起こる腰痛の特徴は、①片側性(まれに両側性)、②若年者から中高年者まで発生、③痛みに波があるの3つです。
例えば、下腿三頭筋に高密度化が存在しており、腰部の椎間関節に関連痛を起こしている場合は、下腿に筋膜が引っ張られた状態になります。
筋膜リリースの効果
引っ張られている方向とは反対側に筋膜を伸張すると、椎間関節包への牽引ストレスが消えるため、痛みを軽減することができます。
効果を判定するためには運動検査が有用で、例えば、立位前屈時に腰痛が発生するなら、筋膜リリース後に疼痛や可動性がどう変化するかをみます。
筋膜リリースの逆効果
もしも筋膜リリースを高密度化が存在する方向に行なった場合は、椎間関節包への牽引ストレスが増悪するため、痛みを増強が起こります。
問題の根源となっている高密度化が存在している場所は、筋膜への伸張操作と運動検査を同時に行いながら検査していくとよいです。
疼痛や可動性が切り替わる場所が、高密度化が発生している場所として予測することができます。
筋膜の高密度化を治療
高密度化に対しては筋膜マニピュレーションが有効で、圧迫と振動刺激を加えることで、筋膜のねじれを解きほぐすことができます。
この治療が完結しないことには疼痛が消失することがなく、日によって波がある状態が続くことになります。

筋膜リリースの方法

筋膜リリースは前述したように検査に用いることも可能であり、筋膜マニピュレーション後の伸張操作(ストレッチ)としても有用です。
方法としては、手指や手根部で皮膚を軽く圧迫した状態から、筋膜が高密度化している部分とは反対方向に伸張していきます。
そこから90〜180秒(長くて5分間)ほど待つことで、粘っこいゲル状の感覚から、さらさらなゾル状の感覚に変化するまで待ちます。
その感覚が膠原線維がほどけた(リリースされた)状態であり、それが筋膜リリースを終了する合図になります。

筋膜マニピュレーションの方法

治療対象となる深筋膜の厚さは約1㎜で、斜め・縦・横方向の3層構造になっており、それぞれの方向へ柔軟に動きます。
しかし、高密度化(膠原線維と弾性線維がからみついた状態)が起きていると、その部位の筋膜に硬さと滑りにくさが感じられます。
その高密度化した部分を効果的に解きほぐすことができる方法が筋膜マニピュレーションであり、筋膜の構造に着目した治療法になります。
方法としては、硬くて圧痛のある部位に対して徒手圧迫を加えながら上下・左右・斜めに細かく動かしていきます。
痛みは10段階で7〜8ほどで訴える場合が多く、その痛みが半減するまで圧迫と振動刺激を継続していきます。
通常は約4分ほどで半減し、手にも筋膜が緩んだ感覚が伝わってくるので、それが筋膜マニピュレーションを終了する合図になります。
正しく治療できている場合は、治療直後に症状が一時的に改善し、そこから2日ほどの炎症が起きて痛みます。
4日後には炎症が落ち着いて筋膜の高密度化も解けた状態なので、以前よりもかなり軽くなっているのを実感できるはずです。

筋膜の主要ライン①:SBL

アナトミートレイン.001
SBL(スーパーフィシャル・バック・ライン)は身体の屈曲系を制限する筋膜で、立位前屈で痛みが発生する場合に異常が疑われます。
仙結節靭帯やアキレス腱移行部に高密度化が起こりやすく、問題がある場合は押圧することで関連痛(普段の痛み)を再現することができます。

筋膜の主要ライン②:DFL

アナトミートレイン.002
DFL(ディープ・フロント・ライン)は身体の伸展系を制限する筋膜で、立位後屈で痛みが発生する場合に異常が疑われます。
大腰筋や腰方形筋に高密度化が起こりやすい傾向にあります。

筋膜の主要ライン③:LL

アナトミートレイン.003
LL(ラテラル・ライン)は身体の側屈系を制限する筋膜で、立位側屈で痛みが発生する場合に異常が疑われます。
外腹斜筋や腰方形筋に高密度化が起こりやすい傾向にあります。

筋膜の主要ライン④:DFL

アナトミートレイン.004
DFL(ラテラル・ライン)は身体の回旋系を制限する筋膜で、体幹回旋で痛みが発生する場合に異常が疑われます。
大殿筋や広背筋に高密度化が起こりやすい傾向にあります。
 
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.004
 
腰部コンパートメント症候群の概要
円背姿勢と腰部コンパートメント症候群
脊柱伸筋群(脊柱起立筋や多裂筋)に過緊張が存在すると、筋内圧の上昇に伴う血流障害性の腰痛が起こります。
その状態を腰部コンパートメント症候群といい、脊椎後弯変形(円背姿勢)のある高齢者に多く発生します。
洗面動作のように立った状態で腰を曲げることによって筋内圧が上昇するため、長時間の立位や前かがみの姿勢で痛みが増強します。
腰を反らすことで瞬時に筋内圧が下降して血流が良くなるため、腰痛が楽になることも腰部コンパートメント症候群の特徴です。

筋肉の問題と筋内圧の問題

腰部コンパートメント症候群は血流障害による痛みであるため、脊柱起立筋群を押圧しても明らかな圧痛が認められないことも多いです。
また、筋損傷の場合は痛みが片側性に限局して現れますが、血流障害の場合は痛みが両側性で広範囲にわたります。
立位では脊柱伸筋群の過度な緊張(膨隆)が認められ、臥位では基本的に疼痛は認められません。

上殿皮神経障害の合併

上殿皮神経障害
腰部コンパートメント症候群は腰背部痛だけでなく、場所の少し離れた上殿部にまで疼痛を訴えることがあります。
これは脊柱伸筋群の過度な緊張によって、胸腰筋膜を貫通する上殿皮神経に絞扼が生じるために起こります。
患者は上殿部に痛みを訴えることになりますが、そこに原因は存在しないためにアプローチしても改善は認められません。
上殿部痛を治療するには、脊柱起立筋のリラクゼーションと、上殿皮神経が貫通する腸骨稜上の滑走性を高めることが必要になります。

リハビリテーションの考え方

腰部コンパートメント症候群のリハビリで重要なのは、①硬くなった筋肉(筋膜)をほぐす、②装具の使用、③脊柱後彎変形の矯正の3つです。
腰を押して楽になるのも筋肉の血流が良くなるためであり、一般的なマッサージでも即時に効果が現れます。
ただし、それは一時的であるため、脊柱起立筋を包んでいる筋膜の柔軟性を確保するようにアプローチすることが大切です。
装具の使用目的は、コルセットや矯正ベルトを着用することにより、脊柱伸筋群の活動を抑えて姿勢を保つためです。
脊柱後弯変形は加齢に伴って進行しやすい変形であるため、まだ変形が少ない初期から腰椎前弯を促すトレーニングを行うことが重要です。
具体的には、①脊柱伸筋群の強化、②腸腰筋(大腰筋)の強化の2つが必要となります。
ケンダルの姿勢分類.012
ケンダルの姿勢分類.013

 
 
 
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.005
 

椎間板の概要

椎間板(椎間円板)
椎間板とは、椎骨と椎骨の間に位置する円形の線維軟骨で、上下の椎骨に加わる衝撃を吸収するクッションの役割を持ちます。
立位姿勢においては、脊椎にかかる荷重の約80%を椎間板が受け止めており、残りの20%を椎間関節が担っています。
椎間関節と軟骨関節
椎間板という弾力性のある組織を介在することにより、上下の椎骨は僅かな範囲ですが自由に動くことができます。
そのため、椎体後方の椎間関節と合わせて、椎体同士の軟骨関節が脊椎の可動性を実現するためには非常に重要です。
上位腰椎では椎間板の前面と後面はほぼ同じ高さであるのに対して、下位腰椎では前面の高さが後面の約2倍の高さとなります。
これは、前面を高くすることで前方部分への圧を減らし、さらに腰椎の前弯を構成するための大切な要素となっています。
椎間板の支配神経|脊椎洞神経
椎間板は、外側の線維輪と中心部の髄核から構成されます。
通常、軟骨組織には神経はありませんが、椎間板の線維輪浅層に関しては脊髄神経前枝(脊椎洞神経)からの支配を受けています。
そのため、椎間板が障害を受けることで腰痛が発生することになります。

椎間板症で痛みが出現する場所

椎間板が疼痛の原因組織である場合は、腰部の中央に両側性の痛みとして現れ、障害部位から遠位にかけて放散します。
椎間板に対して徒手的にストレスは与えられないため、体表からの圧迫で腰痛を再現することはできません。
椎間板症は疼痛部位を尋ねると「この辺り」と手のひらを置いて場所を限局できないのに対して、椎間関節障害の場合は「ここ」と指先で示すことができることが特徴です。
腰痛が両側性(脊髄神経前枝)か片側性(脊髄神経後枝)かで原因が異なりますので、以下の表を覚えておくと臨床でも役立ちます。
片側性両側性
筋・筋膜性腰痛椎間板症
椎間関節障害骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折
コンパートメント症候群

椎間板性疼痛の好発年齢

椎間板が原因の腰痛は、椎間板が変性してくる中高年に多い傾向にあります。
若年者と高齢者で腰痛の原因は大きく異なりますので、以下の表を覚えておくと非常に役立ちます。
若年者高齢者
椎間関節障害椎間関節障害
筋・筋膜性腰痛筋・筋膜性腰痛
椎間板ヘルニア骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折
成長期分離症腰椎変性すべり症
コンパートメント症候群

椎間板以外の問題について

腰痛患者で診断名に椎間板症と付けられるケースは非常に多いですが、実際に椎間板が腰痛の主な原因組織であることは少ないです。
これは膝関節の半月板損傷と同じであり、実際は膝蓋下脂肪体が原因で痛みを誘発していることのほうが圧倒的に多いのと似ています。
椎間板はあくまで加齢に伴って変性する(潰れる)ことがわかっている組織であるため、痛みを強く誘発するような構造をとりません。
ただし、椎間板が潰れると椎体間のクッションがなくなるため、椎間関節への負担が増加し、脊椎の動きも非常に不安定となります。
そうすると椎間関節障害や腰椎変性すべり症、脊椎圧迫骨折など、あらゆる問題へと波及することにつながります。

椎間板の変性を予防する

座位前屈の椎間板内圧
椎間板の変性は遺伝的な要因も関わっていますが、基本的には加齢的変化であり、1度変性したものを改善させることはできません。
そのため、椎間板症の治療というのは困難であり、さらなる変性を起こさないように患者自身が予防的観点を持つことが重要になります。
具体的には、椎間板内圧が上昇する動作を長時間にわたって続けることは避けるように心がけます。
また、重量物を持ち上げるような仕事をしている方では、荷物を持つときに脊柱の後彎化を最小限にするような動作指導を行います。

椎間板症と腰椎不安定症

椎間板が変性することで脊椎が不安定になることは前述しましたが、それによって椎間関節性疼痛が増加します。
椎間関節性疼痛とは、具体的には関節包や脂肪組織などが正常な動きから逸脱してインピンジメントを起こすことに起因します。
関節が不安定な状態であるために、くしゃみや咳で腰に響いたり、腰部を動かした際に急激な痛みが生じることになります。
腰痛に対して脊柱の安定化トレーニング(コアトレ)が推奨されているのは、緩衝材を失って不安定となった動きを深層筋で補うためです。

リハビリテーションの考え方

椎間板症のリハビリを考えるうえで、変性した椎間板は治らないこと、さらなる変性を予防することが臨床では重要です。
例えば、L5/Sの椎間関節に拘縮が存在している場合は、腰椎を屈曲した際に隣接関節であるL4/5が過剰に動いて代償します。
そうするとL4/5間の椎間板には過剰なストレスが加わることになり、他よりも変性しやすくなることが予測されます。
そのため、立位にて体幹前屈テストを行う際は、ひとつひとつの脊椎の動きが過剰または不足していないかを確認することが重要です。

腰椎の適度な前彎を保つ

立位姿勢においては、脊椎にかかる荷重の約80%を椎間板が、残りの20%を椎間関節が担うことは前述しました。
ただし、脊椎が屈曲した場合は椎間板の負担割合が増え、伸展した場合は椎間関節の負担割合が増えることになります。
正常では、腰椎は前彎をとるため、腰椎は伸展位となり、椎間板への負担は大きくならないような構造をとっています。
それが腰椎の前彎が減少している患者では、椎間板の負担が増えるために、徐々に椎間板が変性して腰椎の後彎化が進行していきます。
そのような悪循環に陥らないためにも、腰椎の前彎を獲得することが重要となります。
具体的な方法としては、腰椎を生理的前彎位に保持した歯性から、脊柱起立筋と腸腰筋(大腰筋)の筋力強化を行います。
腰椎前弯下での腸腰筋訓練
 
 椎間関節の概要
椎間関節
脊椎は頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個、仙骨尾骨から成り、各椎骨は上位椎骨の下関節突起と下位椎骨の上関節突起から椎間関節を構成します。
椎間関節周囲には痛覚伝達に関与する神経線維や侵害受容器が豊富に存在するため、腰痛の原因としては非常に多い場所です。
立位姿勢においては、脊椎にかかる荷重の約80%を椎間板が受け止めており、残りの20%を椎間関節が担っています。

椎間関節障害で痛みが出現する場所

椎間関節の構造
椎間関節面にある骨や軟骨には痛覚受容器は存在していないので、実際に痛みを感じているのは関節包や脂肪組織、筋肉になります。
疼痛の発生機序としては、多裂筋の収縮不全や周囲組織の拘縮により、関節が正常の運動軌道から逸脱することで関節包や脂肪体を挟み込むことで起こります。
椎間関節障害は疼痛部位を尋ねると「ここ」と指先で示すことが可能であるのに対して、椎間板症の場合は「この辺り」と手のひらを置いて場所を限局できないことが特徴です。
また、腰痛が両側性(脊髄神経前枝)か片側性(脊髄神経後枝)かで原因がある程度に絞れるので、以下の表を覚えておくと臨床でも役立ちます。
片側性両側性
筋・筋膜性腰痛椎間板症
椎間関節障害骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折
コンパートメント症候群

椎間関節性疼痛の好発年齢

椎間板の圧潰と椎間関節の負担
椎間関節が原因の腰痛は、若年者から高齢者まで幅広く起こるのが特徴です。
高齢者の場合は、椎間板の圧潰などで椎間関節の負担が増加し、さらに周囲組織の問題で関節が不安定となっていることが挙げられます。
若年者の場合は、そのほとんどがスポーツ障害として発生し、過剰な負担に伴う関節炎が痛みの基盤としてあります。
若年者高齢者
椎間関節障害椎間関節障害
筋・筋膜性腰痛筋・筋膜性腰痛
椎間板ヘルニア骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折
成長期分離症腰椎変性すべり症
コンパートメント症候群

椎間関節障害を鑑別する

椎間関節障害による腰痛を見分ける簡単な方法として、腰椎を伸展させたときに痛みが起こるかを確認します。
原理としては、脊椎が伸展すると椎間関節は圧迫され、屈曲すると椎間関節は引き離される方向に動くといった特性を利用しています。
椎間関節は側屈や回旋といった動きも制動しているため、それらの動作を行うことでも痛みを誘発することができます。
また、体表から原因のある椎間関節に圧迫を加えることで疼痛を再現できるので、原因となっている椎間関節レベルを特定することが重要です。

椎間関節の触診方法

椎間関節を触診するためには、背部を覆っている分厚い筋肉(脊柱起立筋群)の緊張をなるべく抜いた状態で行うことが必要です。
具体的な方法としては、患者にベッド上で側臥位となっていただき、検者は脊柱起立筋群を避けるように斜め45度から指を押し込んでいきます。
椎間関節は棘突起の二横指外側に位置するため、頭の中でイメージしながら正しく圧迫が加えられるようにします。
この方法で圧痛が拾えるようなら、椎間関節周囲の組織に痛みがあることが予測されます。

立位後屈テストで診るポイント

体幹伸展動作,腰椎伸展,骨盤後傾,股関節伸展
立位後屈テストで着目する点は3つあり、①腰椎伸展、②骨盤後傾、③股関節伸展が正常な範囲で動いているかを確認します。
例えば、股関節に伸展制限が存在する場合は、足りない動きを補うように腰椎伸展が過剰に出現するような代償運動がみられます。
関節が過剰に動くということは、それだけ負担が増えるということなので、その積み重ねが関節障害を起こすことにつながるわけです。
その場合は、股関節の柔軟性を獲得することが治療手段となるため、動きの乏しい場所と過剰になっている場所は必ず確認すべきです。

リハビリテーションの考え方

椎間関節障害のリハビリで重要なのは、①関節炎の軽減、②股関節伸展制限の改善、③多裂筋の収縮促通、④椎間関節の拘縮除去の4つです。
関節炎は治癒するまでには長くて2〜3ヶ月を要すので、それまでは疼痛を誘発する動作は避け、炎症を再燃させないことが必要になります。
股関節の伸展制限には腸腰筋の過緊張や短縮が関与しているため、制限が存在する場合はリラクゼーションやストレッチを要します。
多裂筋に収縮不全が置きている場合は、関節包や脂肪体を引き寄せることができずに、インピンジメントを起こす原因となります。
そのため、多裂筋のリラクゼーションを行うことにより、攣縮を取り除いて収縮性を高めることが重要です。
また、椎間関節炎を起こしている症例では周囲組織(とくに関節包)の短縮が存在しているため、椎間関節のモビライゼーションを要します。

多裂筋の深層線維が重要

多裂筋深層線維
多裂筋浅層線維
多裂筋は浅層線維と深層線維に分けられます。
浅層線維は背側仙腸靱帯を通して仙腸関節に繋がっており、仙結節靭帯に付着する大殿筋とともに仙腸関節をまたぐような形で連結しています。
深層線維はすべての乳頭突起と椎間関節包に起始しており、椎間関節を2つおきにまたぎながら停止しています。
そのため、仙腸関節性疼痛の場合は多裂筋の浅層線維が、椎間関節性疼痛の場合は多裂筋の深層線維の問題が考えられます。

椎間関節モビライゼーション

多裂筋のリラクゼーションと椎間関節のモビライゼーションは似た方法となるため、臨床では覚えておくと非常に役立ちます。
方法としては、患者に側臥位をとってもらい、股関節と膝関節は屈曲した状態を保持します。
その姿勢から治療対象となる上位椎骨の棘突起と下位椎骨の棘突起を施術者は把持し、棘突起間を開くように力を加えます。
軽い力で棘突起間の開閉を繰り返すことにより、多裂筋の収縮を促通させることができ、リラクゼーションを図ることができます。
椎間関節の拘縮に対しては、それよりも強い力で棘突起間を開くように力を加えることで、周囲組織を伸張することが可能となります。

腰椎の過度な前彎を矯正する

腰椎の前弯増強は椎間関節の負荷を高めるため、できる限りに正常な姿勢へと矯正することが求められます。
前彎を増強させる因子として、①多裂筋の短縮、②腸腰筋の短縮、③大殿筋の弱化が挙げられます。
多裂筋の短縮に対するストレッチ方法として、仰臥位から両膝を抱え込むようにして腰椎を屈曲させていきます。
多裂筋のストレッチ
腸腰筋の短縮に対するストレッチ方法として、片膝立ての姿勢から重心を前方に移動していき、股関節伸展を引き出すようにしていきます。
ケンダルの姿勢分類.007

椎間関節伸展を抑制するテーピング

脊椎分離症に対するテーピング治療|腰椎伸展可動域制限
前述した触診などを用いて、問題となっている椎間関節が特定できたら、その部分の伸展動作を抑制するテーピングを行います。
下図の黄色い○部分が障害部と仮定すると、その上下から障害部に皮膚を集めるようにしながら貼付していきます。
テープは伸縮性があるものを選ぶことが大切で、お勧めは3Mのキネシオロジーテーピング(マルチポアスポーツ)です。
このようにして貼るだけで、椎間関節の伸展動作を制限できるため、即時的に痛みを緩和することが可能となります。
 
 
 
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.006
 
 
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.007
 
 
 
 
脊椎圧迫骨折(胸腰椎の椎体骨折)のリハビリ治療
脊椎圧迫骨折のリハビリ治療に関して、ガイドラインを参考にしながら解説していきます。目次は以下になります。

脊椎圧迫骨折の概要

陳旧性を含む脊椎圧迫骨折の有病率は、60歳代で7-14%、70歳代で37-45%となっており、高齢者には非常に身近な骨折となっています。
腰が曲がっている高齢者のほとんどは、圧迫骨折にて背骨が潰れていることが原因のため、どれだけ多いかが容易に理解できるはずです。
骨折の発生には骨密度の低下が深く関わっているため、男性より女性の方が発生しやすく、約2倍程度とされています。
 正常な椎体圧迫骨折になった椎体 
脊椎|側面②脊椎圧迫骨折①
好発部位は胸腰椎移行部(Th12とL1)であり、次いでL2、L3、L4、Th11,Th10となっています。
”【用語解説】「C」頸椎、「Th」胸椎、「L」腰椎の意味。Th12とは第12胸椎を指し、L1とは第1腰椎のことを意味する。
脊椎の構成
病状経過
脊椎圧迫骨折は、骨粗鬆症を基盤として発症することが多く、外傷などによって骨傷や微小骨折が生じることで起こります。
骨折が起こると激しい痛みを伴うことが予想されますが、実際には圧迫骨折の発生初期に痛みを伴うことは少ないと考えられています。
理由としては、骨内部(皮質骨の深層や海綿骨)には神経が分布していないため、内部にヒビが入っても痛みを感じることがないためです。
 
しかしながら、骨外部(骨膜)には神経が豊富に分布しているため、損傷が起こると激しい痛みが襲ってくることになります。
多くの場合は最初に骨内部に問題が起き、そのヒビが骨外部に波及するようにして進行するため、痛みの多くは2〜3日後に起こります。
もちろん受傷時に骨膜を損傷したケースでは受傷直後より疼痛が発症しますが、そのケースはわずかに16%と報告されています。
受傷後の治療
病院を受傷してくる患者のほとんどは激しい痛みが起きてからであり、損傷から数日ほどのタイムラグが存在しています。
圧迫骨折による椎体の圧潰は、受傷から10日後までがピークとなり、受傷6週までは進行しやすい状態が続きます。
このことを考慮して、骨折後の約1ヶ月は体幹ギプス固定とし、可能なら入院にて安静を保つようにします。
固定から1ヶ月後に骨癒合が進展しているようなら、硬性コルセットに変更し、自宅への退院が可能となります。
離床時期については様々な見解がありますが、胸腰椎移行部の骨折は圧潰が非常に進行しやすいので、食事とトイレ以外は2〜3週間のベッド上安静が推奨されています。
それ以外では早期離床が可能ですが、これは高齢者の場合はベッド上安静によるデメリットのほうが強いためです。
このことを考慮し、早期離床する場合は廃用症候群が進行しない最低限のレベルに止めることとし、患者毎に活動量は決めることが必要です。
症状が安定していても椎体の圧潰は進行する可能性があるため、退院後も定期的なリハビリを行なっていくことが推奨されます。
とくに隣接椎体の骨折リスクは、骨折がない場合より5倍ほど高くなるため、再骨折を引き起こさないことが重要です。
脊椎圧迫骨折②
圧迫骨折を引き起こす圧力
脊椎圧迫骨折を引き起こす圧力は、若者では800㎏程度ですが、老人では150㎏以下であり、骨粗鬆症を伴う場合はさらに小さい圧力で発生します。
ですので、転倒などの具体的なエピソードがないまま、突然に発生しているケースも非常に多く見受けられます。
もちろん、なにもないのに圧迫骨折をきたしたとは考えられにくいため、痛みが出現する前の生活状況などを詳しく聴取しておくことが今後の予防策を考えるうえでも重要となります。
中には、椅子にドスンと腰掛けただけで骨折しているケースもあるので、その場合は骨粗鬆症が重度であることが推察されます。
圧迫骨折1
発生部位によって安静度が異なる
胸腰椎移行部(Th12とL1)の骨折は圧潰が進展しやすいため、通常よりも長めに安静臥床することが必要であることは前述しました。
その理由として、胸腰椎移行部は最大前屈位で生来の後彎が増強し、最大後屈位でも前彎位をとりません。
よって、胸腰椎移行部には常に椎体前方へ圧迫が加わることになり、他の部位に比べて椎体圧潰が強く、楔状変形のリスクが高くなります。
それに対して、下部腰椎は可動域が大きいですが後彎位になりにくいため、一般的に楔状変形は起こりにくくなります。

圧迫骨折の診断方法

圧迫骨折の簡単な診断方法
  1. 骨粗鬆症の有無
  2. 急性の背部痛
  3. 起居動作時の疼痛
  4. 骨折棘突起に一致した強い叩打痛
※経験則ですが、上記の四つが当てはまる場合、80%以上で圧迫骨折の可能性があります。
圧迫骨折の検査,叩打痛

画像診断

1.単純X線画像(レントゲン写真)
レントゲンでは急性期の圧迫骨折を見分けることは難しく、陳旧性との区別も専門家でない限りはほとんど判別できません。
しかしながら、椎体の圧潰度などは定量的に評価が可能なので、経過を追いながら撮影していくことが望まれます。
椎体の透過性をみることで骨粗鬆症(骨密度の低下)の進行度がある程度にわかるため、そのあたりに注目してから診ることも必要です。
 単純写真側面像 単純写真正面像 
単純写真側面像.X線写真,脊椎,圧迫骨折単純写真正面像.X線写真,脊椎,圧迫骨折
2.MRI画像
圧迫骨折の確定診断はMRIが有用であり、骨折部には明確な信号変化がみられるので見落とすことはまずないと思います。
しかし、急性期には信号がまだ出ていない場合も度々みられます。
その場合は、さらに一週間ほど時間を空けて撮影してみると、綺麗に信号変化が現れる場合が多いです。
MRI T1強調像MRI T2強調像
T1強調像,MRI,脊椎,圧迫骨折T2強調像,MRI,脊椎,圧迫骨折

脊椎圧迫骨折を判定する方法

レントゲン写真を用いて、椎体骨折を判定する方法として、定量的評価法(QM法)と半定量的評価法(SQ法)のふたつがあります。
それぞれの判定方法と、メリットやデメリットについて解説します。

定量的評価法

QM法(Quantitative Measurement)は、脊椎のレントゲン写真を用いて、椎体の圧潰率を確認する方法です。
椎体を前縁(A)、中央(C)、後縁(P)の三箇所に分けて、それぞれの圧潰率を計算していきます。
扁平椎に関しては、A・C・Pの全てが圧潰していますので、上位または下位椎体と比較して計算することになります。
下位にいくほど椎体は大きくなりますので、それを考慮しながら、どちらと比較したかまで記載することが求められます。
椎体骨折の圧潰の種類|正常椎体骨折の圧潰の種類|楔状椎
椎体骨折の圧潰の種類|扁平椎椎体骨折の圧潰の種類|魚椎
メリット変化を数値で捉えることができる
デメリット計測が必要なために評価に時間を要する
レントゲン写真を撮影時のポジショニングの影響を受けやすい
椎体の形態的変化がなくても椎体骨折と診断される場合がある
一部の治験を除いてほとんど実施されていない

半定量的評価法

SQ法(Semiquantitative Method)は、脊椎のレントゲン写真を用いて、椎体窩と椎体面積の減少率を目視で確認する方法です。
見るだけで直感的に評価できるため、QM法のように時間をとられることもありません。
また、簡便にも関わらず信頼性は確認されており、現在ではほとんどの臨床場面でSQ法が使用されています。
判定はグレード0から3で実施し、グレード1以上で椎体骨折と判定します。
椎体骨折|SQ法|グレード0椎体骨折|SQ法|グレード1
椎体骨折|SQ法|グレード2椎体骨折|SQ法|グレード3
メリットQM法と比較して簡単に評価ができる
M法ほど患者のポジショニングや画像の拡大率が影響しない
デメリットグレードによる判定のために軽微な進行はわからない
直感的に判断するために読影トレーニングを要する
グレード0と1の判定に苦慮する場合が多い

脊椎の読影はより重要となる

高齢者において、明確な脊椎圧迫骨折をきたしたことがない場合でも、椎体の圧潰が進行しているケースは非常に多いです。
骨粗鬆症の診断基準(2012年度版)では、脆弱性椎体骨折の既往があれば骨密度の値に関係なく骨粗鬆症の診断が確定できるようになりました。
これから高齢者のレントゲン写真をみる際は、意識して椎体窩と椎体面積をみるように心がけてみてください。

手術療法/薬物療法

手術適応の場合
  1. 不安定性が残存する症例
  2. 椎体圧潰率50%以上
  3. 20°以上の後弯変形の症例
  4. 脊髄・馬尾神経症状のある症例
  5. 膀胱直腸障害のある症例
手術の効果
経皮的椎弓根的に椎体内圧を減圧する方法では、疼痛は顕著に軽減され80%以上の高率で1週間以内に歩行が可能となったという報告もあります。
また、減圧術による合併症は特にないとされています。
 セメントを注入する方法金具で固定する方法
手術|セメント固定術圧迫骨折|脊椎固定術
薬物療法の効果
骨形成促進薬等の薬物療法では、骨粗鬆症患者の背骨の骨量が使用開始から1年後に平均で約10%増加し、疼痛が軽減したという報告が数多くあります。
骨粗鬆症が発症している高齢者では、圧迫骨折の所見がなくても、骨粗鬆症のみで腰痛が発生することがわかっています。
ただし理由については、まだ十分なエビデンスはありません。
しかし、骨の脆弱性は直接的な痛みの原因となる可能性も高いので、疼痛軽減や圧潰防止を目的に薬物療法を実施していくことが大切です。
以下に骨粗鬆症に対して使用される主な薬剤について記載します。
薬剤商品名効果副作用
テリパラチド薬フォルテオ骨形成促進、骨密度上昇吐き気、便秘、脱力感
テリボン
ビスホスホネート薬ダイドロネル骨吸収抑制、骨密度上昇胃腸障害、吐き気
ボナロン
ベネット
ボノテオ
SERM(選択的エストロゲン受容体作動薬)エビスタ骨吸収抑制、女性限定乳房のはり、ほてり
ビビアント
活性型ビタミンD3薬アルファロールカルシウム吸収を補助まれに高カルシウム血症
ロカルトロール
エディロール
ビタミンK2薬ケイツー骨質の悪化を防止ほぼなし
グラケー

リハビリテーション

時期別の治療プログラム
1.安静期(強い疼痛が伴う期間で約1-2週間)
方法内容
薬物療法鎮痛薬、骨形成促進薬
装具療法体幹ギプスの装着、硬性コルセットの作成
生活指導ベッド上での安静臥床、生活動作の制限
運動療法ベッドサイドにて廃用予防トレーニング
2.ADL拡大期(疼痛が落ち着いてきた約2-6週間)
方法内容
薬物療法骨形成促進薬
装具療法硬性コルセットへの移行
生活指導体幹屈曲動作の制限、歩行量の制限
運動療法離床後のトレーニング
3.骨癒合後の予防トレーニング(6週以降)
方法内容
薬物療法骨形成促進薬(服用期間:1-2年間)
装具療法コルセットの離脱
運動療法椎間関節の可動域改善、前胸部の柔軟性向上

ベッド上での安静姿勢

骨折部位や年齢によって安静レベルは異なるため、ここではベッド上での安静臥床が必要なレベルに仮定して解説します。
通常、胸腰椎移行部の骨折では2〜3週間の安静臥床が必要となりますが、その時の姿勢もとても大切な要素です。
背臥位では、椎体前方は離開される方向に力が加わるため、骨癒合を促すという意味では不向きといえます。
そのため、背臥位ならベッドを20〜30度ほどギャッジアップすることにより、骨折部を軽く密着でき、骨癒合不全を防ぐことが期待できます。
また、側臥位も臥床姿勢としては有用で、骨折部に離開ストレスが加わりにくいことが挙げられます。
一度潰れてしまった背骨は二度と元に戻らないので、ここでの生活指導や圧潰予防は極めて重要な役割といえます。

安静期の運動と対応

ベッド上での安静時期では、廃用症候群が進行しないように出来る範囲での運動が必要となります。
筋萎縮しやすい部位は概ね決まっており、とくに内側広筋と中殿筋の筋力低下は防ぐことが必要です。
また、臥床中に静脈血栓が起きないようにしっかりと足関節の底背屈運動(Calf pumping)を実施することも有用です。
Calf-pumping3

ADL拡大期の運動と対応

ベッドからの離床が許可されてからは、歩行車などの歩行補助具を用いて、徐々に歩行量を増やしていくことが必要です。
歩行車にもたれかかるような前かがみの歩行は、椎体前方への負荷が加わるため、歩行姿勢に関しては十分な注意が必要です。
この時期に痛みが軽いからといって積極的に歩かれる患者がいますが、そういった方は再び強い痛みが発生する場合が非常に多いです。
たとえ痛みが軽くても、活動量を上げすぎないように制限を加え、骨折部の治癒が完了するのを待つことが大切です。
姿勢を正しく保つためにも筋力トレーニングは積極的に行うことが大切で、とくに脊柱起立筋群、大腰筋、大腿四頭筋は鍛えていきます。
具体的な方法として、脊柱起立筋群は立位にて両手でセラバンドを把持し、前方に90度ほど挙上させるようにして保持します。
うつ伏せで上体反らしのような運動をすることは禁物で、そのような姿勢は骨折部を離開させるからです。
大腰筋を鍛える方法としては、立位で下肢に重錘を巻き、平行棒などを把持した状態で股関節を屈曲させる運動を行うと良いです。
大腿四頭筋はスクワットが効果的で、この運動は下肢の筋肉を全般的に鍛えられるので、積極的に実施してみてください。

脊柱起立筋群のトレーニング効果

前述したように、圧迫骨折後の脊柱起立筋群の強化は非常に重要であり、圧潰に対して高い予防効果を発揮します。
圧潰率は運動の非実施群と比較して、受傷3ヶ月で8%程度、6ヶ月で10%程度の抑止効果があっと報告されています。
また、骨に対する力学的負荷は骨形成を促すとされ、運動による骨密度の増加は約1‐2%ほどあります。
よって、治療では薬物療法と運動療法の併用が有効と考えられています。
”「圧潰率(%)」 = (「後方高(㎜)」 - 「前方高(㎜)」) ÷ 「後方高(㎜)」
圧潰率の計測方法

骨癒合後の運動と対応

骨癒合後は、椎間関節の可動域拡大と前胸部の柔軟性向上が重要となります。
骨折部の周囲に拘縮が存在していると、動いたときに動くところだけに負担が集中してしまいます。
それは結果的に圧迫骨折の再発を招くことにつながるため、できる限りに拘縮は取り除いておくことが必要です。
胸椎が曲がると脊椎全体が曲がってしまうため、脊柱起立筋群に加えて僧帽筋の中部線維や後部線維も鍛えていくと効果的です。
骨癒合後も変形は進行していくリスクがありますので、普段の姿勢や動作についても、必要に応じて指導を行うようにしてください。
 
 
 
後屈
 
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.008
 
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.009
 
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.010

椎間関節の概要

椎間関節
脊椎は頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個、仙骨尾骨から成り、各椎骨は上位椎骨の下関節突起と下位椎骨の上関節突起から椎間関節を構成します。
椎間関節周囲には痛覚伝達に関与する神経線維や侵害受容器が豊富に存在するため、腰痛の原因としては非常に多い場所です。
立位姿勢においては、脊椎にかかる荷重の約80%を椎間板が受け止めており、残りの20%を椎間関節が担っています。

椎間関節障害で痛みが出現する場所

椎間関節の構造
椎間関節面にある骨や軟骨には痛覚受容器は存在していないので、実際に痛みを感じているのは関節包や脂肪組織、筋肉になります。
疼痛の発生機序としては、多裂筋の収縮不全や周囲組織の拘縮により、関節が正常の運動軌道から逸脱することで関節包や脂肪体を挟み込むことで起こります。
椎間関節障害は疼痛部位を尋ねると「ここ」と指先で示すことが可能であるのに対して、椎間板症の場合は「この辺り」と手のひらを置いて場所を限局できないことが特徴です。
また、腰痛が両側性(脊髄神経前枝)か片側性(脊髄神経後枝)かで原因がある程度に絞れるので、以下の表を覚えておくと臨床でも役立ちます。
片側性両側性
筋・筋膜性腰痛椎間板症
椎間関節障害骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折
コンパートメント症候群

椎間関節性疼痛の好発年齢

椎間板の圧潰と椎間関節の負担
椎間関節が原因の腰痛は、若年者から高齢者まで幅広く起こるのが特徴です。
高齢者の場合は、椎間板の圧潰などで椎間関節の負担が増加し、さらに周囲組織の問題で関節が不安定となっていることが挙げられます。
若年者の場合は、そのほとんどがスポーツ障害として発生し、過剰な負担に伴う関節炎が痛みの基盤としてあります。
若年者高齢者
椎間関節障害椎間関節障害
筋・筋膜性腰痛筋・筋膜性腰痛
椎間板ヘルニア骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折
成長期分離症腰椎変性すべり症
コンパートメント症候群

椎間関節障害を鑑別する

椎間関節障害による腰痛を見分ける簡単な方法として、腰椎を伸展させたときに痛みが起こるかを確認します。
原理としては、脊椎が伸展すると椎間関節は圧迫され、屈曲すると椎間関節は引き離される方向に動くといった特性を利用しています。
椎間関節は側屈や回旋といった動きも制動しているため、それらの動作を行うことでも痛みを誘発することができます。
また、体表から原因のある椎間関節に圧迫を加えることで疼痛を再現できるので、原因となっている椎間関節レベルを特定することが重要です。

椎間関節の触診方法

椎間関節を触診するためには、背部を覆っている分厚い筋肉(脊柱起立筋群)の緊張をなるべく抜いた状態で行うことが必要です。
具体的な方法としては、患者にベッド上で側臥位となっていただき、検者は脊柱起立筋群を避けるように斜め45度から指を押し込んでいきます。
椎間関節は棘突起の二横指外側に位置するため、頭の中でイメージしながら正しく圧迫が加えられるようにします。
この方法で圧痛が拾えるようなら、椎間関節周囲の組織に痛みがあることが予測されます。

立位後屈テストで診るポイント

体幹伸展動作,腰椎伸展,骨盤後傾,股関節伸展
立位後屈テストで着目する点は3つあり、①腰椎伸展、②骨盤後傾、③股関節伸展が正常な範囲で動いているかを確認します。
例えば、股関節に伸展制限が存在する場合は、足りない動きを補うように腰椎伸展が過剰に出現するような代償運動がみられます。
関節が過剰に動くということは、それだけ負担が増えるということなので、その積み重ねが関節障害を起こすことにつながるわけです。
その場合は、股関節の柔軟性を獲得することが治療手段となるため、動きの乏しい場所と過剰になっている場所は必ず確認すべきです。

リハビリテーションの考え方

椎間関節障害のリハビリで重要なのは、①関節炎の軽減、②股関節伸展制限の改善、③多裂筋の収縮促通、④椎間関節の拘縮除去の4つです。
関節炎は治癒するまでには長くて2〜3ヶ月を要すので、それまでは疼痛を誘発する動作は避け、炎症を再燃させないことが必要になります。
股関節の伸展制限には腸腰筋の過緊張や短縮が関与しているため、制限が存在する場合はリラクゼーションやストレッチを要します。
多裂筋に収縮不全が置きている場合は、関節包や脂肪体を引き寄せることができずに、インピンジメントを起こす原因となります。
そのため、多裂筋のリラクゼーションを行うことにより、攣縮を取り除いて収縮性を高めることが重要です。
また、椎間関節炎を起こしている症例では周囲組織(とくに関節包)の短縮が存在しているため、椎間関節のモビライゼーションを要します。

多裂筋の深層線維が重要

多裂筋深層線維
多裂筋浅層線維
多裂筋は浅層線維と深層線維に分けられます。
浅層線維は背側仙腸靱帯を通して仙腸関節に繋がっており、仙結節靭帯に付着する大殿筋とともに仙腸関節をまたぐような形で連結しています。
深層線維はすべての乳頭突起と椎間関節包に起始しており、椎間関節を2つおきにまたぎながら停止しています。
そのため、仙腸関節性疼痛の場合は多裂筋の浅層線維が、椎間関節性疼痛の場合は多裂筋の深層線維の問題が考えられます。

椎間関節モビライゼーション

多裂筋のリラクゼーションと椎間関節のモビライゼーションは似た方法となるため、臨床では覚えておくと非常に役立ちます。
方法としては、患者に側臥位をとってもらい、股関節と膝関節は屈曲した状態を保持します。
その姿勢から治療対象となる上位椎骨の棘突起と下位椎骨の棘突起を施術者は把持し、棘突起間を開くように力を加えます。
軽い力で棘突起間の開閉を繰り返すことにより、多裂筋の収縮を促通させることができ、リラクゼーションを図ることができます。
椎間関節の拘縮に対しては、それよりも強い力で棘突起間を開くように力を加えることで、周囲組織を伸張することが可能となります。

腰椎の過度な前彎を矯正する

腰椎の前弯増強は椎間関節の負荷を高めるため、できる限りに正常な姿勢へと矯正することが求められます。
前彎を増強させる因子として、①多裂筋の短縮、②腸腰筋の短縮、③大殿筋の弱化が挙げられます。
多裂筋の短縮に対するストレッチ方法として、仰臥位から両膝を抱え込むようにして腰椎を屈曲させていきます。
多裂筋のストレッチ
腸腰筋の短縮に対するストレッチ方法として、片膝立ての姿勢から重心を前方に移動していき、股関節伸展を引き出すようにしていきます。
ケンダルの姿勢分類.007

椎間関節伸展を抑制するテーピング

脊椎分離症に対するテーピング治療|腰椎伸展可動域制限
前述した触診などを用いて、問題となっている椎間関節が特定できたら、その部分の伸展動作を抑制するテーピングを行います。
下図の黄色い○部分が障害部と仮定すると、その上下から障害部に皮膚を集めるようにしながら貼付していきます。
テープは伸縮性があるものを選ぶことが大切で、お勧めは3Mのキネシオロジーテーピング(マルチポアスポーツ)です。
このようにして貼るだけで、椎間関節の伸展動作を制限できるため、即時的に痛みを緩和することが可能となります。
 
 
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.011
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.012

腰部脊柱管狭窄症の概要

腰部脊柱管狭窄症(水平断面図)1
脊柱管狭窄症とは、脊髄の通り道である脊柱管(椎孔の連続)に狭窄が生じ、中を通過している脊髄や馬尾に圧迫をきたしている状態を指します。
好発部位は、①L4/5、②L3/4、③L5/S1になります。
脊髄はL2の高さで終了し、それより下部は馬尾と呼ばれる神経根の束になるので、腰部脊柱管狭窄症のほとんどは馬尾障害を意味します。
馬尾は血管と共に硬膜によって包まれているため、脊柱管が狭窄するとまず硬膜が圧迫を受け、間接的に中に位置する神経束が圧迫を受けます。

発生原因と症状

腰部脊柱管狭窄症(側方断面図)3
脊柱管に狭窄をきたす原因としては、骨のズレ(すべり症)、椎間板膨隆、椎間関節の肥厚、黄色靭帯の肥厚、姿勢不良などがあります。
姿勢不良以外は加齢的変化であるため、高齢者のほとんどは脊柱管に多少なりの狭窄をきたしているといえます。
画像検査で狭窄が見つかっても、神経症状をきたしていないのなら問題とはならないため、必ず神経症状が出現しているかを確認することが大切です。
神経症状とは筋力低下(下肢の脱力感)や感覚障害(しびれ)、腱反射の低下・消失であり、腰痛や下肢痛などは含まれません。
腰部脊柱管狭窄症に特徴的な間欠性跛行がなく、腰痛や下肢痛が主症状の場合は他疾患を疑う必要があります。

発生頻度と予後

腰部脊柱管狭窄症は50歳以上で約13%に発生しており、10年後の自然経過は「改善3:不変3:悪化4」と報告されています。
前述したように原因の多くは加齢的変化であるため、基本的には自然経過で改善が望めない疾患です。
しかし、改善が3割も存在していることから、診断が間違っている(狭窄が障害の原因ではない)ケースも多く存在していると考えられます。
リハビリで改善できる可能性があるのは腰椎前弯の増強に伴う狭窄例だけであり、その場合は姿勢矯正で間欠性跛行の距離が伸びる場合もあります。

画像診断(MRI)

正常
正常な腰椎MRI
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症のMRI
腰部脊柱管狭窄症(解説)
脊柱管狭窄症のMRI
正常の画像と狭窄症の画像を見比べてみると一目瞭然ですが、このケースでは椎間板膨隆や黄色靭帯の肥厚が狭窄に関与しています。
とくに左側の神経根は通り道がほとんどないため、神経根症状を発生していることが推察されます。

他疾患との鑑別方法

①腰椎椎間板ヘルニアとの鑑別
簡易的な鑑別方法として、腰椎を後屈して症状が増悪するなら脊柱管狭窄症、腰椎を前屈して増悪するなら椎間板ヘルニアの可能性が高いです。
健常者では腰椎を後屈させると脊柱管の断面積が9%減少するのに対して、狭窄症患者では67%も減少することが報告されています。
腰椎の前屈では脊柱管が拡大するので、馬尾の圧迫が解除されて即時に症状が軽快するといった特徴を持ちます。
椎間板ヘルニアが前屈で悪化する理由は、神経根が引き伸ばされることと、椎間板が後方に押し出されるためです。
②慢性動脈閉塞症との鑑別
下肢の慢性動脈閉塞症(PAOD)では、腰部脊柱管狭窄症に特徴的な間欠性跛行が出現するため、しばしば誤診されることがある疾患です。
簡易的な鑑別方法として、脊柱管狭窄症の場合はエアロバイクなら全く問題なく、長い時間にわたって実施することが可能です。
それに対して、PAODは血流障害のために疲労感が強く出現し、長く実施することができません。
PAODの確定診断には血圧脈波検査装置を用いたABI検査が有効で、下肢閉塞性動脈病変に対して確実な診断が可能です。(感度95%:特異度100%)
また、あくまで補助診断ではありますが、足背動脈と後脛骨動脈の触知にて閉塞の可能性を見つけることもできます。
健常者では足背動脈の約10%が欠損し、後脛骨動脈の0.2%が欠損するため、後脛骨動脈の触知有無を優先すべきとの指摘もあります。
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手術療法の適応と効果

腰部脊柱管狭窄症に対する手術の目的は、狭くなった脊柱管を拡げることで、圧迫されている神経を除圧することです。
狭窄症はその半数が手術を必要とする疾患であり、具体的に手術が適応となるケースは以下になります。
  1. 保存療法が無効
  2. 膀胱直腸障害の出現
  3. 明らかな麻痺症状
  4. 100m以下で間欠性跛行が出現
除圧術から平均12.8年後に行った追跡調査では、患者の69%が機能面において良好な状態を保っていました。
再手術を受けていたのは約10%で、発症してからの罹病期間が長すぎると十分な改善を得られないことが報告されています。
また、予後不良を予測する最も重要な因子は「腰痛の重症度」であり、腰痛が主症状の場合は脊柱管狭窄症以外の要因が考えられます。
椎弓切除後の脊椎支持性に関しては、通常、椎間関節の骨切除は2/3以内にとどめるため、不安定性は生じないとされています。

リハビリテーション

運動療法や物理療法に関しては、文献のシステマティックレビューにて十分なエビデンスを認めなかったとしています。
原因を考えると理解もしやすいですが、黄色靭帯の肥厚や椎間板膨隆がリハビリで治ることはありません。
そのため、リハビリはあくまで二次障害の予防を図ることを目的とし、生活指導などを交えながら実施することが大切です。
唯一、症状の緩和が期待できるのは腰椎の過度な前彎が狭窄を増強している場合であり、その際は姿勢矯正による効果が期待できます。

腰椎過前彎の矯正トレーニング

腰椎前彎と脊柱管狭窄1
骨盤の前傾は腰椎の前彎を増強させて脊柱管を狭窄させるため、過度な前彎は症状を憎悪させる原因になります。
前彎を増強させる因子として、①多裂筋の過緊張、②腸腰筋の過緊張、③大殿筋の弱化が挙げられます。
①多裂筋
多裂筋の起始停止
多裂筋は硬くなりやすい筋肉であるため、攣縮や短縮が存在していると骨盤を前傾させ、腰椎の屈曲を妨げる原因になります。
攣縮に対するリラクゼーションとして、腹臥位で多裂筋の収縮と弛緩を繰り返して緩める方法があります。
短縮に対するストレッチ方法として、仰臥位から両膝を抱え込むようにして腰椎を屈曲させていきます。
多裂筋のストレッチ
②腸腰筋(腸骨筋・大腰筋)
腸骨筋の起始停止
大腰筋の起始停止
腸腰筋は硬くなりやすい筋肉であるため、攣縮や短縮が存在していると骨盤を前傾させ、腰椎の前彎を増強させる原因になります。
攣縮に対するリラクゼーションとして、仰臥位にて腹部を押圧するようにして大腰筋をマッサージする方法があります。
短縮に対するストレッチ方法として、片膝立ての姿勢から重心を前方に移動していき、股関節伸展を引き出すようにしていきます。
ケンダルの姿勢分類.007
③大殿筋
大殿筋の起始停止
大殿筋は弱化しやすい筋肉であるため、適度な緊張が発揮できていない場合は骨盤を前傾させる原因となります。
筋力トレーニングの方法として、仰臥位でのブリッジングが有効で、膝を深く屈曲することで大殿筋を集中的に鍛えることができます。
ケンダルの姿勢分類.018

二次障害の予防

腰部脊柱管狭窄症の患者では、間欠性跛行の出現によって活動量が著しく低下するため、心肺機能や筋力低下などの二次障害が現れます。
それらを予防するためにも、症状を増悪させない範囲で積極的に有酸素運動や筋力トレーニングは実施していくべきです。
お勧めの方法はエアロバイクであり、苦なく実施できるために筋力を強化するうえでも役立ちます。
 
 
 
側屈
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.013
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.014
 
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.015
 
 
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.016
腰椎椎間板ヘルニアの概要
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腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板の髄核や線維輪が後方に膨隆または脱出することにより、神経根や馬尾を圧迫し、神経症状を引き起こす疾患です。
人口の約1%が罹患するといわれ、手術患者は人口10万人あたり年間46.3人、好発年齢は20-40歳代で、男女比は2:1で男性に多いです。
椎間板は加齢に伴って扁平化していき、髄核の水分も減少して動きがほとんどなくなるため、高齢者では発生頻度が低くなります。
椎間板ヘルニアが後方に起こる理由として、前方は幅広く前縦靭帯に覆われていること、椎間板は後方のほうが構造的に弱いことが挙げられます。
椎間板ヘルニアの患者では、MRIで以下のような画像所見となります。
 矢状面からみた画像水平面からみた画像 
椎間板ヘルニア|矢状面図椎間板ヘルニア|水平断面図

腰椎椎間板ヘルニアの発症要因

椎間板内圧②
発症要因として、重労働や喫煙習慣が挙げられます。
また、遺伝的要因(先天的な発症しやすさ)の関与も報告されており、とくに若年者の発症ではその傾向が強いようです。
腰椎椎間板ヘルニアはぎっくり腰(急性腰痛症)の既往が複数回ある場合が多く、その関係性についても指摘されています。
主な原因としては、椎間内圧の高まりによって、椎間内に位置する椎間板(髄核と線維輪)が潰れて後方に飛び出してくることが原因となります。
そのため、中腰姿勢での作業や不良姿勢でのデスクワークなど、椎間板内圧を高める姿勢は避けることが大切です。
脊椎|体幹屈曲時

腰椎椎間板ヘルニアの好発部位

椎間板ヘルニアは腰椎の4番目と5番目の間(L4/L5)と腰椎の5番目と仙骨の間(L5/S1)に発生しやすく、両者で全体の95%を占めます。
一般的にL4/L5のヘルニアでは、下位であるL5の神経根が圧迫されることになります。
ただし、外側ヘルニアの場合は上位の神経根(L4)が圧迫を受けます。
椎間板ヘルニア,部位,割合
健常者においても椎間板の変性を認める場合は多く、調査では平均年齢40歳で約4割に無痛性の椎間板ヘルニアを認めたとの報告があります。
また、線維輪断裂や椎間板膨隆はさらに多くの人でみられ、脊髄変形に関しても約3割に認められるといったことがわかっています。
この結果からも、LDHが極めて一般的な所見であることが明らかになっており、画像所見だけで障害を判定するのは困難としています。
椎間板ヘルニアの割合2

脊椎(椎間板)の構造

椎間板(椎間円板)
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脊椎には椎間板と呼ばれるクッションのようなものがあり、背骨にかかる荷重を分散する役割を持っています。
その椎間板が退行性変化にて膨隆することにより、後方に位置する硬膜(馬尾)や神経根を圧迫して様々な症状を引き起こします。
ちなみに、L2の高さで脊髄は終了し、馬尾(硬膜に包まれた神経根の束)へと移行します。
脊髄は中枢神経であるため、障害されると中枢性麻痺が起こりますが、馬尾は末梢神経なので障害されると末梢性麻痺が起こります。
中枢性麻痺末梢性麻痺
筋緊張
深部反射
病的反射
筋萎縮
筋線維束攣縮
馬尾は硬膜内に存在しており、健常者では、その配置は規則正しく並んでいることがわかっています。
前方の外側から順に上位の神経根が位置しており、後方の内側にいくに従って下位の神経根が位置します。
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椎間板ヘルニアの神経根症状

腰椎椎間板ヘルニアは、L4/L5間(L5神経根障害)とL5/S1間(S1神経根障害)の発生が圧倒的に多いです。
そのため、以下にその代表的な症状をまとめます。
 L4神経根L5神経根S1神経根
腱反射膝蓋腱反射↓膝蓋腱反射→膝蓋腱反射→
アキレス腱反射→アキレス腱反射→アキレス腱反射↓
筋力低下足部背屈,内反足部背屈,足趾背屈足部外反,足趾底屈
感覚障害大腿前面から下腿内側下腿外側から前足部足底から下腿後面
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分類①:傍正中ヘルニア

最も多い腰椎椎間板ヘルニアのタイプで全体の約8割を占めています。
椎間板の後方は後縦靭帯によって保護されているので、真後ろに髄核が飛び出すことは少なく、ほとんどはその傍から飛び出すことになります。
その状態を傍正中型ヘルニアと呼んでおり、方向的には斜め後方に飛び出した状態で、L5/S1レベルではS1の神経根を圧迫します。
外側型ヘルニアのように椎間関節部分で挟み込まれることはなく、後方にスペースが残っているために強い圧迫を受けることはありません。
そのため、疼痛は自制内である場合が多く、椎間板内圧を高める姿勢を継続することで症状が悪化していきます。
傍正中ヘルニア2

分類②:正中ヘルニア

二番目に多い腰椎椎間板ヘルニアのタイプで全体の2割弱を占めています。
椎間板の後方は後縦靭帯によって保護されていますが、膨隆した椎間板によって後縦靭帯ごと後方へ押し出された状態になります。
そうすると後方に位置する硬膜を前方から圧迫するような力が加わり、脊柱管が狭窄している場合は馬尾障害をきたすこともあります。
正中型ヘルニアは髄核よりも線維輪の膨隆が原因であるため、他のヘルニアと比較して吸収されづらく、治りにくい傾向にあります。
そのため、すでに膀胱直腸障害などの馬尾障害が発生しているケースでは、早期の手術が必要となります。
後縦靭帯を突き破って髄核が外(脊柱管)に飛び出してしまった状態を穿破脱出型ヘルニアとも呼びます。
穿破したあとはこれまで圧迫を受けていた硬膜が解放されるために、それまでの重苦しい痛みが一気になくなります。
また、飛び出した髄核は吸収されやすいため、その後は症状が緩解するケースが多いといわれています。
ただし、飛び出したヘルニアが脊柱管内に詰まってしまうこともあり、その場合は詰まった場所より下位の神経はすべて麻痺するため、脊髄損傷に類似した症状をきたします。
ヘルニアの症状を繰り返し、椎間板に負担のかかるような力仕事をしている場合に発生しやすいと考えられます。
正中ヘルニア2

分類③:椎間孔内外側ヘルニア

発生頻度としては少数ですが、最も症状が強いタイプのヘルニアです。
外側型ヘルニアは神経が最も強く絞扼されるために、神経に炎症が起きやすく、そこに刺激が加わることで激痛を訴えるのが特徴です。
通常、神経を圧迫されて起こるのは感覚障害や筋力低下ですが、神経に炎症が起きている場合は痛みが起きることがわかっています。
L5/S1レベルの椎間板ヘルニアにおいて、傍正中型はS1の神経根が障害されるのに対して、外側型はL5の神経根が障害されます。
外側型ヘルニアは髄核が飛び出しているために吸収されやすく、症状がおさまりやすい型ではありますが、激痛のために手術を希望する患者が多いです。
神経根を強く圧迫しているため、神経支配領域に限局した知覚障害や筋力低下などが起こります。
椎間孔内外側ヘルニア2

分類④:椎間孔外外側ヘルニア

発生頻度としては少数であり、椎間孔内外側ヘルニアと比較して症状が乏しいタイプのヘルニアです。
椎間孔で強く絞扼されることがないため、神経は後方に逃げることができ、あまり強い神経症状はきたしません。
L5/S1レベルの椎間板ヘルニアにおいては、L5神経に障害が現れます。
椎間孔外外側ヘルニア2

分類⑤:椎体内型ヘルニア(シュモール結節)

一般的に椎間板ヘルニアは後方に突出しますが、稀に椎体内に飛び出していくことがあり、それをシュモール結節と呼びます。
椎体と椎間板の間には軟骨終板が存在していますが、その軟骨終板に亀裂が入り、椎間板内の成分が椎体内に漏れ出すことで起こります。
痛みの性質は椎間板障害にちかく、主症状は腰痛であり、硬膜や神経根を圧迫してはいないので神経症状はありません。
椎間板内圧を高める姿勢で腰痛は悪化し、長時間の座位が困難となるといった訴えが聞かれます。
シュモール結節MRI画像
MRI画像では素人が見てもはっきりと問題部位がわかりますが、単純X線画像では特定が難しい場合も多いです。
ただし、しっかりと見ていくとレントゲンでも椎体が削れてることが微かにわかりますので、見落とさないように注意が必要です。
シュモール結節単純X線画像

手術の適応と効果

保存的治療が奏功せずに3ヶ月以上症状が継続する場合や、馬尾障害が認められる場合は観血的治療(手術)の適応となります。
手術に至る症例は全体の10-30%で、再発率は術後10年で3-8%とされており、最適な椎間板切除量などについては一致した見解はみられません。
保存的治療と観血的治療の予後を比較すると、短期的な臨床成績は観血的治療が優れていますが、長期成績や復職率には大差がないようです。

手術①:直接的椎間板ヘルニア切除術

最も一般的な方法で、直接的にヘルニアを除去する手術です。
手術方法には、LOVE変法による直視下手術、内視鏡下摘出術、顕微鏡視下摘出術などがあります。
直視下手術では、皮膚から傍脊柱筋までを4-5㎝ほど切開し、さらに椎弓の一部と黄色靱帯を切除して脊柱管に到達します。
そこから硬膜と神経根を確認しながら剥離操作を行い、さらに奥にあるヘルニアを摘出していきます。
直視下では、内視鏡や顕微鏡下と比べて直接的にヘルニアを確認できるので、剥離操作が行いやすいのが特徴です。
しかし、手術侵襲が大きいので感染症のリスクが高く、侵襲された組織(とくに筋肉)が瘢痕化して術後腰痛の原因となります。
内視鏡手術では、切開は1.5㎝ほどと低侵襲であり、間接的ではありますが鮮明な画像を見ながら剥離操作が行えます。
低侵襲のために術後痛や感染症のリスクは減りますが、手技の習得には一定の経験を要します。
椎間板ヘルニア切除術|LOVE変法による直視下法

手術②:経皮的髄核摘出術

経皮的髄核摘出術(PN法)は、局所麻酔下にて椎間板の後外側から内径約5㎜ほどの器具を挿入し、椎間板内の髄核を摘出していき、間接的に内圧を減らす方法です。
飛び出している髄核部分を取り除くわけではありませんが、全体的な圧が低下することで一定の効果が期待できます。
経皮的髄核摘出術(PN法)

手術③:レーザー蒸散法(椎間板減圧術)

レーザー蒸散法は、椎間板の髄核を蒸散させることにより椎間板内圧を減少させ、神経根への圧迫を減らす方法です。
経皮的髄核摘出術と同程度の効果が得られるとされていますが、隣接椎体の骨壊死や熱による神経根損傷などのリスクが伴います。
経皮的レーザー椎間板減圧術

手術をしても痺れがとれない理由

術後1-2週間は、圧迫や癒着によって生じた神経の炎症が残存しているため、殿部痛や下肢痛といった疼痛が持続する場合は多いです。
それ以降になると脊柱起立筋や多裂筋の瘢痕化により、腰痛が残存し続けるような場合が多いので、早期の介入が必要とされています。
術後に麻痺が増悪する場合は、①術中の神経損傷、②術中に神経根を内側牽引する操作での神経損傷、③術後血腫による神経圧迫などが考えられます。
上記は手術による合併症の観点からですが、実際は術前の神経状態のほうが術後の痺れの原因としては大きいです。
手術をすることで神経絞扼がなくなり、痛みは劇的に改善しやすいですが、しびれなどの麻痺症状は治りにくいことが多いです。
理由としては、長期の圧迫により神経がすでに不可逆的な変化を起こしている可能性や、そもそも問題点が別部位にあった可能性が考えられます。
とくに梨状筋症候群による坐骨神経痛は椎間板ヘルニアと間違われやすく、そのまま手術に至るケースも多いようです。

ヘルニアが自然治癒する過程

腰椎椎間板ヘルニアが自然治癒することはよく知られていますが、飛び出した髄核などが自然縮小する機序はいまだ明らかにされていません。
しかし、ヘルニア塊の辺縁に新生血管を伴う肉芽組織の形成とマクロファージを主とした炎症反応が起こることから、吸収には貪食作用が関与していると考えられています。
線維輪や軟骨終板よりも髄核に強い吸収反応は起こりやすく、線維輪から脱出した髄核は約3ヶ月ほどで消失するといわれています。

ヘルニアで腰痛は起こるのか?

ここまで読んでくれたのなら理解もしやすいかと思いますが、重要なのはヘルニアがどの組織を圧迫しているかです。
神経根のみを圧迫しているなら基本的に腰痛は起こらず、下肢の知覚障害や筋力低下などの神経症状が主となります。
しかしながら、硬膜や後縦靭帯などを圧迫している、または椎間板の線維輪表層が損傷している場合は腰痛が出現します。
これらの組織は脊椎洞神経の支配を受けており、この神経が障害を受けると腰の中心に痛みを訴えることになります。
腰痛が片側性である場合は、椎間関節障害または筋筋膜性腰痛症のどちらかである可能性が高いです。

リハビリテーション方法

  1. 生活指導
  2. 脊椎伸展運動
  3. 骨盤後傾の矯正
  4. 神経の滑走性改善
  5. 脊椎の可動性制限
  6. 重心線の調整
  7. 牽引療法

腰椎椎間板ヘルニアの生活指導

生活指導で最も重要なのは、椎間板内圧を上げるような動作は避け、なるべく同じ姿勢をとり続けないように注意することです。
デスクワークの場合は座位が多いですが、座った姿勢は骨盤が後傾しやすく、いわゆる仙骨坐りとなります。
椎間板内圧の部分でも書きましたが、座位(とくに仙骨坐り)は椎間板への負担が大きくなりますので、骨盤を立てて座ることが大切です。
また、30分に1回は腰を動かすようにして除圧し、負担が集中しないように指導します。
 
座位姿勢は後方重心となりやすい
 

脊椎伸展運動の方法

①うつ伏せになり、深呼吸をして完全に力を抜き、2-3分間この姿勢のままでいます。
脊椎伸展①
②両肘が肩の下に来るようにして、前腕で上半身を支える姿勢をとります。この姿勢をとったら深呼吸をして完全に力を抜き、2-3分間この姿勢のままでいます。
脊椎伸展②
③両手を肩の下に置き、手は腕立て伏せをするときの位置に置きます。両肘を伸ばしながら上半身を持ち上げていきます。この姿勢を1-2秒保持してから最初の姿勢に戻ります。
脊椎伸展③
④両腕をまっすぐに伸ばすことができたら、腰がたわんだ状態を確認しながら1-2秒保持します。これらの運動を10回1セット、1日6-8セットで実施していきます。
脊椎伸展④
マッケンジー体操(脊椎伸展運動)は即時的な効果を認める文献は多くありますが、長期的な効果を認める文献はほとんどありません。
しかし、内容が簡単でひとりでも取り組めるため、ホームエクササイズとしては非常に有効な手段です。
椎間板ヘルニアが改善(吸収)されるまでの間、在宅での疼痛コントロールの手段として活用することができます。
実施の際には、しっかりと下部腰椎(障害レベル)の伸展動作が出るように、腰のたわみを重視しながら指導していくことが大切です。

骨盤後傾の矯正トレーニング

通常、腰椎は前方に緩いカーブ(前弯)を持っており、脊椎全体としてはS字のような弯曲構造をとっています。
そうすることで椎間板にかかる負担を減少させていますが、腰椎の前弯が減少している人(平背)では、うまく圧を逃がすことができません。
そして結果的に椎間板内圧を高めることにつながり、椎間板ヘルニアを助長させているケースもあります。
腰椎は骨盤と連結しており、骨盤が後傾している人ほど腰椎の前弯は減少している傾向にあります。
そのため、骨盤後傾を矯正するトレーニングにて、生活上で椎間板にかかる負担を減らすことも有用です。
骨盤を前傾させる筋肉は、①脊柱起立筋、②大腿直筋、③腸腰筋であるため、これらの筋肉を強化していきます。
また、骨盤後傾を強める腹直筋や大殿筋、ハムストリングスは緩めるように調整します。
骨盤を後傾させる筋肉

筋トレ①脊柱起立筋

脊柱起立筋は8つの筋肉から構成されており、①頸腸肋筋、②胸腸肋筋、③腰腸肋筋、④頭最長筋、⑤頸最長筋、⑥胸最長筋、⑦頸棘筋、⑧胸棘筋があります。(下の画像は腰腸肋筋)
腰腸肋筋|後面
骨盤後傾を矯正する上で最も重要なのが脊柱起立筋の強化です。この筋肉が弱化している場合は、圧迫骨折や椎間板の損傷をまねく原因となります。
骨盤前傾,脊柱起立筋,猫背,修正
筋力トレーニングの方法として、腹臥位での上体反らし運動があります。高負荷の運動であるため、必要に応じて肘や腕で補助しても構いません。
背筋トレーニング

筋トレ②:腸腰筋

腸腰筋は骨盤前面深層に位置する筋肉で、①大腰筋、②腸骨筋、③小腰筋の総称です。
腸腰筋①
腸腰筋は脊椎にも付着部を持っているため、収縮することで腰椎前弯を直接的に増強することができます。
骨盤前傾,腸腰筋,猫背,修正
腸腰筋をトレーニングする方法として、下記のように重錘と骨盤ベルトを利用した腰椎前弯下での運動方法が有用です。
重錘の重さは腰ベルトが3-5㎏、足部が1-2㎏程度にて実施することが推奨されます。
腰椎前弯下での腸腰筋訓練

筋トレ③:大腿直筋

大腿直筋は大腿四頭筋の中で唯一の二関節筋であり、股関節屈曲にも働きます。そのため、骨盤の前傾にも作用します。
大腿四頭筋
大腿直筋の筋力トレーニングで猫背を修正する作用はほとんどありませんが、短縮にて骨盤を前傾位に引っ張っている場合が度々みられます。
骨盤前傾,大腿直筋,猫背,修正
筋力トレーニングの方法として、背臥位にて下肢伸展位で挙上していきます。この方法では、腸腰筋も同時に鍛えることができます。
大腿四頭筋,筋トレ,方法,SLR運動,下肢挙上

ストレッチ①:腹直筋

腹直筋は体幹を屈曲させる主力筋であり、収縮することで骨盤は後傾方向に誘導されます。
腹直筋|前面
腹直筋の短縮にて骨盤後傾をきたしているケースはほとんどいませんが、可能性のひとつとして確認しておくことは大切です。
骨盤後傾,腹直筋,円背,修正
ストレッチ方法として、うつ伏せで腰を床につけたまま、床に両手をついて上体を起こし、前を向きます。腹部の筋肉が伸ばされているのを感じながら実施してください。
腹直筋,ストレッチ,方法,体幹伸展

ストレッチ②:大殿筋

大殿筋は人体最大の単一筋で、名前の通りに殿部に付着しています。
大殿筋|後面
大殿筋の短縮もあまり見られることはありませんが、骨盤に影響を与えている可能性があるのでチェックします。
骨盤後傾,大殿筋,円背,修正
ストレッチ方法として、座って両脚の裏を合わせ、背中を真っ直ぐにしたまま上体をゆっくりと前屈します。
大殿筋,伸張,方法,股関節屈曲,あぐら

ストレッチ③:ハムストリング

ハムストリングは大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋にて構成されており、大腿後面に位置しています。
ハムストリング②
ハムストリングは短縮をきたしやすい筋肉であり、膝関節の屈曲拘縮に伴って骨盤を後傾させる原因となります。
骨盤後傾,ハムストリング,円背,修正
ストレッチ方法として、つま先を外側に向けて両脚を広げて座ります。両膝を曲げて上体を前傾し、両手で両膝を外側に向かって押します。
ハムストリング,ストレッチ,方法

神経の滑走性改善

圧迫や絞扼にて神経根や周囲組織に炎症を起こしている場合、軽いメカニカルストレスでも強い痛みを訴えることになります。
飛び出した髄核が吸収されたあとは徐々に炎症は治まっていきますが、治癒後は周囲組織に瘢痕拘縮が残ります。
そうすると神経の滑走性が障害されてしまい、SLRテストといった神経を伸張する検査で痛みを訴えることになります。
瘢痕拘縮を改善するためには神経を滑走させることが必要ですが、炎症が残っている時期に行うと痛みを助長するために注意が必要です。
基本的には除圧術を実施した後や、髄核が吸収されたと判断された場合に、痛みの状態をみながらアプローチしていきます。
方法としては、L5の神経根を伸ばしたい場合はSLRテストの肢位で実施し、伸張と弛緩を繰り返しながら滑走させます。
痛みが強い場合は下肢の位置をやや下方で止めて、足関節を底背屈させながら動きを促していきます。
坐骨神経の伸張・滑走性の改善

脊椎の可動性制限(テーピング治療)

椎間板ヘルニアのある脊椎レベルの可動性を制限することにより、炎症を起こしている神経根への圧迫を除去します。
方法は装具療法(コルセット)やテーピング治療がありますが、ここでは後者について解説します。
まずは画像検査や神経テストにて問題となっている椎間板レベルを特定し、その後に障害部位の屈曲動作を抑制するテーピングを行っていきます。
下図の黄色い○部分が障害部と仮定すると、上下から障害部の皮膚を引き離すようにしながら貼付していきます。
テープは伸縮性があるものを選ぶようにし、15%ほど引き伸ばしてから貼ると効果的です。
椎間板ヘルニアに対するテーピング治療|腰椎屈曲可動域制限

重心線の調整(足底板の使用)

補高と腰椎前弯|つま先上げ
ハイヒールのように踵が上がっている靴を履いた場合、体重をつま先で支えるようになるために重心が前方に移動します。
そうすると、前方に移動した重心を後方に戻そうとして脊柱起立筋が働くようになり、腰椎前弯を増強させるように誘導することができます。
ただし、慣れないうちは膝関節を屈曲させてバランスをとるため、反対に骨盤が後傾してしまうこともあるので注意が必要です。
ハイヒールは腰に悪いとよく言われますが、このことからもわかるように、必ずしも腰に悪いというわけではありません。
大切なのは、その人に合うか合わないかを見極めてから使用することです。

牽引療法の効果

一般的に牽引療法の効果は、①椎体間や椎間関節の離開、②周囲軟部組織の伸張、③筋スパズムの低下、④血流の改善などが挙げられます。
その中で重要なのは「①」の椎体間の離開であり、ここは徒手的にアプローチすることができないので、脊椎牽引のポイントになると思います。
椎体間を離開するにはスプリット・テーブルを使用した場合でも45㎏の牽引力が必要とされており、大きな負荷をかける必要があることがわかります。
実際にはそこまで強い牽引力で実施することはほとんどありませんが、しっかりと伸ばすことで椎間板の整復に期待ができます。

おわりに

治療効果が期待できるリハビリテーション方法を中心にいくつか紹介していきましたが、いまだに椎間板ヘルニアに対してエビデンスが確立した運動療法は示されていないのが状況です。
なので、画一的な運動プログラムを組むのではなく、患者の症状に合わせてメニューを選択肢し、その都度の状態変化を評価しながら治療は勧めていってください。
 
 
回旋
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.017
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測2.001
 
 
腰痛の原因を疼痛誘発動作から推測.019
その他
 

仙腸関節の概要

仙腸関節の場所
仙腸関節は仙骨と腸骨から構成される平面関節で、前方は前仙腸靱帯、後方は骨間仙腸靱帯と後仙腸靱帯により強固に連結しています。
後仙腸靭帯には多裂筋の浅層部が付着しており、仙結節靭帯に付着する大殿筋と仙腸関節上で連結しています。
仙腸関節は平面関節のために剪断力を受けやすく、産後などで靭帯に緩みが生じると周囲の関節包などにストレスが生じやすくなります。
仙腸関節障害は慢性腰痛症の約10%ほどを占めており、若年から中年者までの女性に多いといった特徴を持っています。
仙腸関節靭帯

仙腸関節は動くのか?

仙骨
仙腸関節は平面関節ではありますが、関節面は非常に不規則な形状をしており、それらがはまり込んでいるために可動性は乏しいのが特徴です。
仙骨が腸骨に対して前屈する可動域は約1.3度、後屈する可動域は約1.7度、距離にすると約1-2㎜と非常に僅かなものです。
そんな僅かな動きで何に貢献するかというと、歩行時に体幹重量と床反力が収束する際に負担を分散する作用を担っています。
関節内には滑液が存在しており、動きもあるために動的関節に属しますが、70代以上では80%が骨結合していると報告されています。
このことから、高齢になるほど仙腸関節障害は少なくなり、若年から中年者に発症しやすいことがわかります。

仙腸関節に痛みが起こる理由

関節可動時の疼痛
痛みのある関節を考えるうえで、安定した関節と不安定な関節の違いを知っておくことは重要となります。
例えば、関節に拘縮が存在していたとしても、関節自体が安定したものならば痛みは発生しません。
運動時に関節に痛みが出る最大の理由は不安定性であり、関節が正常な動きから逸脱することで周辺組織の挟み込み(インピンジメント)を起こし、激しく鋭い痛みが一瞬にして走ります。
仙腸関節の動きは非常に僅かですが、産後などは靭帯が緩むことで仙腸関節の動きが大きくなり、関節が不安定となります。
また、慢性腰痛の患者では仙腸関節周囲の靭帯に付着する多裂筋浅層線維と大殿筋に攣縮が存在することで、関節が不安定となる場合もあります。

仙腸関節障害の症状

仙腸関節の関節前方にはL2-S2、関節後方にはL4-S3の感覚神経が分布しているため、下肢に波及するような関連痛が生じる場合も多いです。
仙腸関節障害の主な症状は、仙腸関節に沿った殿部痛ですが、4割には大腿外側部痛、2割には鼡径部痛が出現します。
日常生活での痛みについては、車を長く運転できない、椅子に長く座れない、痛みがある側を下にした横向きで寝れないなどの訴えがあります。

多裂筋と仙腸関節障害の関係性

多裂筋深層線維
多裂筋浅層線維
多裂筋は浅層線維と深層線維に分けられ、浅層線維は後仙腸靱帯を介して、仙腸関節に付着しています。
そのため、浅層線維に攣縮が生じると仙腸関節の動きが不安定になり、周囲組織への刺激を与えることになります。
仙腸関節モビライゼーションで仙腸関節痛が軽減するのは、多裂筋浅層線維の攣縮が改善することで関節の動きが安定することに由来します。
関節の動きが安定すると即時に痛みが緩和するため、治療後に痛みの軽減が認められます。

仙腸関節障害を確認するテスト

仙腸関節の機能障害を確認する方法として、①ゲンスレンテスト、②パトリックテストの2つがあります。
ゲンスレンテストの方法としては、ベッドで仰向けの状態から、検査側の下肢をベッドの端から垂らします。
非検査側の下肢を屈曲させて患者に膝を把持してもらい、検査側の股関節を他動的に伸展させて疼痛の有無をみます。
この方法は骨盤に前傾強制力を加えることで、仙腸関節にストレスを与えています。
パトリックテストの方法としては、ベッドでの仰向けの状態から、検査側の足部を非検査側の膝関節近位に置きます。
そこから他動的に股関節を外転・外旋させながら、骨盤に対してオープンストレスを加えて疼痛を有無をみます。

多裂筋浅層線維のリラクゼーション

患者にはベッド上で側臥位をとっていただき、施術者は患者の正面に立ちます。
多裂筋の付着部である上後腸骨棘や後仙腸靱帯に圧を加えながら伸張していき、その後にゆっくりと緩めます。
緩めるときに10%ほどの軽い筋収縮を患者自身に行わせることで、リラクゼーション効果を高めることができます。
この作業を場所を少しずつ移動しながら圧痛が消失するまで繰り返していき、多裂筋が十分に緩んだところで治療は終了とします。

仙腸関節の過剰な可動性を修正する

産後の仙腸関節の緩みが痛みの引き金になりやすいことは前述しましたが、それを予防するための効果的な方法が骨盤ベルトの使用です。
ホルモンの影響で出産に備えた骨盤は周囲靭帯が緩くなっており、その状態は産後もしばらく続きます。
靭帯の緩みが戻るまでの間は骨盤ベルトを使用して仙腸関節の動きを止めることにより、仙腸関節の痛みをやわらげることができます。
 
骨盤の周囲筋をトレーニングすることでも仙腸関節の緩みは改善でき、周囲筋の中でもとくに重要なのが骨盤底筋群になります。
骨盤底筋群は立位でお尻をキュッと締めるような動きをする筋肉で、その動きは仙腸関節を締める方向にも働きます。
鍛え方としては、仰向けで膝を曲げた状態から、お尻を上げる運動(ヒップリフト)を中心に実施していきます。
産後に仙腸関節が開くような姿勢(骨盤の後傾した座位)は、靭帯の緩みを助長させることにつながります。
なので、とくに普段の姿勢には気をつけるように説明し、骨盤底筋群を働かせた姿勢を定期的にとるように指導してください。
 

ぎっくり腰の概要

ぎっくり腰
物を持ち上げる時、腰をひねった時、くしゃみをした時など、日常生活の様々な場面で急激に起こる腰痛の総称をぎっくり腰といいます。
腰痛の原因には、椎間関節性腰痛、仙腸関節性疼痛、筋・筋膜性腰痛、椎間板線維輪の急性外傷などがあります。
その中でも椎間関節由来のものは頻度が高く、全腰痛の70~80%を占めるともいわれています。

ぎっくり腰の原因は筋・筋膜

椎間関節の構造
急性腰痛症は筋・筋膜の損傷によるものが多く、多裂筋の痙攣(こむら返りのようなもの)が起きている可能性が高いと考えています。
多裂筋は椎間関節包に付着しており、収縮することで関節包を牽引し、滑膜や脂肪組織の挟み込みを防ぐ役割を持ちます。
それが痙攣を起こして収縮が困難となると、腰部を動かすときに周囲組織を挟み込んでしまい、急激な腰痛が生じることになります。
侵害刺激が腰椎椎間関節周囲に加わると,殿部から大腿筋膜張筋(腸脛靭帯を含む)にかけて筋スパズムを伴う関連痛が高頻度に発生します。
多裂筋の起始停止

リハビリテーションの効果

介入急性腰痛
エビデンス効果グレード
安静臥床の指示強い効果なし/悪化D
通常活動継続の助言強い小さいB
書籍・ハンドアウト強い小さいB
表在低温熱ラップ療法強い中等度B
腰部サポーター弱い実証されていないI
脊柱マニピュレーションやや強い弱い/中等度B/C
運動療法強い効果なしD
鍼治療弱い実証されていないI
牽引療法弱い実証されていないI
TENS弱い実証されていないI
温熱・寒冷療法弱い実証されていないI
米国疼痛学会のガイドラインにおいて、急性腰痛症に対して効果が認められる治療は、①通常活動の継続、②表在低温熱ラップ療法、③脊椎マニピュレーションだけです。

①通常活動の継続

安静臥床は回復を遅延させるだけで治療効果はないとされていますので、安静はなるべく最小限に止め、早期に通常活動へと戻すことが大切です。
ぎっくり腰の原因は多裂筋の痙攣にあると書きましたが、原因が椎間板や靱帯にあるのであれば、絶対に臥床のほうが治癒は早くなるはずです。
しかし、そうではないということは、やはり組織の器質的な損傷ではない可能性が高いと考えられます。
筋痙攣はこむら返りと同じで、一度発生してしまうと再発を繰り返しやすいため、状態が安定するまでは日常の生活動作に注意を払う必要があります。

②表在低温熱ラップ療法

化学反応の放熱による低温度の温熱を、少なくとも8時間以上にわたって連続で局所にあてる方法です。
家庭でも簡単に行える方法として、腰にカイロを貼っておくことで長時間にわたって患部を温めることができます。

③脊椎マニピュレーション

椎間関節性疼痛(多裂筋の攣縮)に由来する腰痛に対しては、脊椎マニピュレーションが即効すると報告されています。
理由としては、椎間関節を離開させることで多裂筋が伸張と弛緩を繰り返し、リラクゼーションを図れることが挙げられます。
具体的な方法として、患者にベッド上で側臥位をとってもらい、施術者は上下の棘突起に指を置いてから椎間関節を拡げていきます。

④大殿筋のマッサージ

多裂筋に攣縮が起きると、多裂筋と連結する大殿筋にも強い筋スパズムが生じるため、殿部には強い圧痛を認めることになります。
多裂筋は深層筋のために直接的なマッサージは行いにくいため、連結する大殿筋を緩めることで間接的に多裂筋を緩めることが可能です。
大殿筋は腸脛靭帯を介して大腿筋膜張筋とも連結するため、大腿筋膜張筋からアプローチしていくことでも効果を発揮します。

⑤生活動作の指導

荷物を持つ|腰を痛める姿勢荷物を持つ|腰を痛めにくい姿勢
ぎっくり腰の再発を予防するためには、物を持ち上げる際には膝を曲げて、なるべく腰椎が後彎しないように行うことが大切です。
 
 
慢性腰痛を改善するために重要な3つの筋肉
腰痛のほとんどは1ヶ月以内に自然消失しますが、中には半年経っても治らないと訴える患者も多くいらっしゃいます。
そのような慢性的に腰痛がある状態を改善するためには、問題を起こしやすい3つの筋肉に対してアプローチすることが大切です。
3つの筋肉とは、①腸腰筋、②大殿筋、③多裂筋であり、これらは連鎖的に障害を引き起こしながら腰痛を起こします。
では、どのような連鎖かというと、現代人は圧倒的に座位をとる時間が長いために腸腰筋が硬くなりやすい傾向にあります。
腸腰筋が硬くなると拮抗筋である大殿筋の筋力が低下し、それを補うために同じく仙結節靭帯から起始する大腿二頭筋が緊張します。
そうすると同時に後縦スリング機構で連携する脊柱起立筋も過剰に緊張し、腰部上側方には筋肉の膨隆が認められます。
後縦スリング機構
脊柱起立筋の膨隆はあくまで結果であり、ここでアプローチすべきは腸腰筋のストレッチと大殿筋の筋力強化となるわけです。
次に多裂筋の問題ですが、基本的に腸腰筋と大腰筋はアウターマッスルに属しますが、多裂筋はインナーマッスルです。
両者の違いとして、前者は関節の動きを主に担うのに対して、後者は関節の安定性を担う割合が大きくなります。
とくに多裂筋は硬くなりやすい筋肉であるため、椎間関節の一部に拘縮が存在すると、拘縮がない椎間関節に過剰な可動性が生じます。
そうなると特定の箇所に負担が集中することになり、それは結果的に椎間板障害や椎間関節障害などの問題を起こすトリガーとなります。
側臥位にて股関節を深屈曲させたときに腰椎の屈曲が乏しく、痛みが伴うようなら、多裂筋に問題がある可能性が高いのでアプローチを要します。
方法としては、側臥位で多裂筋の収縮と弛緩を繰り返してリラクゼーションさせ、股関節の深屈曲でストレッチングしていきます。
多裂筋が硬くなる理由にも腸腰筋の緊張は関わっていて、重心が前方に偏位するのを筋収縮で受け止めている状態にあります。
そのため、腸腰筋と多裂筋、そして大殿筋はセットで治療していく必要があり、全体がうまく整わないことには改善しにくいといえます。
慢性腰痛も原因次第では改善できる可能性があるため、根本に存在している問題を見つけることが大切です。
 
 
 
多裂筋のトリガーポイントと腰痛症
多裂筋の概要
多裂筋の起始停止
多裂筋は脊椎深層を走行している筋肉で、頸椎から骨盤まで伸びている非常に長い筋肉になります。
頸椎・胸椎・腰椎でそれぞれ作用が異なることから、部位ごとに頚多裂筋、胸多裂筋、腰多裂筋と分ける場合もあります。
細かい筋が重なるように連結しており、各筋はそれぞれ各起始部から2-4椎骨分上位の椎骨の棘突起に付着しています。
脊柱の伸展運動にも作用しますが、その走行や位置からも働きは弱く、基本的には椎骨同士を引き付けて安定させるのが主な役割となります。

基本データ

支配神経脊髄神経の後枝
髄節C3-4
起始4頸椎から第5腰椎までの横突起
仙骨の背面、上後腸骨棘、後仙腸靱帯
停止各起始部から2-4椎骨分上位の椎骨の棘突起
動作脊柱の伸展・回旋(反対側)・側屈(同側)
椎間関節の安定
筋体積71
筋線維長6.7

運動貢献度(順位)

貢献度
体幹伸展
1脊柱起立筋
2腰方形筋
3半棘筋
4多裂筋
※多裂筋は深層筋のために脊椎の動きに関する貢献度は低い

表層部と深層部での作用の違い

多裂筋深層線維
多裂筋浅層線維
多裂筋が高さによって、頸椎・胸椎・腰椎に分けられることは前述しましたが、さらに表層と深層でも線維の特徴が異なっています。
表層は長い線維で構成されており、最下部で仙骨背面や後仙腸靱帯に付着することから、腰仙関節や仙腸関節の安定性に関与しています。
また、運動中心軸から距離があるため、体幹の伸展動作に作用します。
深層は短い線維群で構成されており、椎間関節の関節包や一椎間下の乳頭突起に付着しています。
また、運動中心軸に近いため、脊柱の安定化に作用します。

トリガーポイントと関連痛領域

多裂筋のトリガーポイントは腰背部痛の原因として一般的なもので、尾側では仙骨・尾骨部の痛みの原因となります。
表層の脊柱起立筋と共にトリガーポイントを複数形成することが多いため、治療では圧痛点をひとつずつ治療していくことが必要です。
中位腰椎の多裂筋と脊柱起立筋との割合は1:1であるのに対し、下位腰椎では多裂筋が80%を占めています。
そのため、多裂筋の問題は仙骨背面から下位腰椎の横突起周辺にかけて起こりやすいです。

ストレッチ方法

腰多裂筋のストレッチング
仰向けの状態から、骨盤を支えながら体幹を屈曲・側屈・回旋し、両膝を肩関節の方向に近づけていきます。

筋力トレーニング

腰多裂筋の筋力トレーニング
四つ這いとなって片手片脚を挙上し、地面と水平になるように意識しながら姿勢を保つように実施します。
腰多裂筋の筋力トレーニング2
両膝を曲げた状態からお尻を上げ、さらに片脚を挙げることで負荷を高めたトレーニングです。
体幹と下肢を一直線に保持することにより、腰多裂筋を鍛えることができます。

関連する疾患

  • 慢性腰痛
  • 腰部コンパートメント症候群
  • 椎間関節障害
  • 腰仙関節障害
  • 仙腸関節障害
  • 腰部脊柱管狭窄症 etc.

慢性腰痛(腰部コンパートメント症候群)

慢性腰痛の病態のひとつに、腰部コンパートメント症候群があります。
腰椎椎間板ヘルニアに対する椎弓間髄核摘出術後では、多裂筋が侵襲されるために、その後に慢性的な浮腫状態が続く場合があります。
そうすると腰部の区画内圧が上昇し、慢性的に腰痛が持続します。

椎間関節障害

腰部多裂筋は椎間関節包に起始しています。
そのため、椎間関節由来の腰痛では、脊髄神経後枝内側枝を介した反射により、同レベルの多裂筋に攣縮が生じます。
そうすると体幹伸展時のみでなく、体幹屈曲時(多裂筋の伸張時)にも関節包が刺激されて腰痛が起こります。

腰仙関節障害

腰部多裂筋は仙骨後面に起始しています。
そのため、多裂筋に持続的な筋攣縮が存在すると、腰仙関節の安定性を失うことにつながります。

仙腸関節障害

腰部多裂筋は後仙腸靱帯に起始しています。
そのため、多裂筋に持続的な筋攣縮が存在すると、後仙腸靱帯を通じて仙腸関節のストレスが増加します。

腰部脊柱管狭窄症

下位腰椎レベルでは脊柱起立筋よりも腰部多裂筋が占める割合のほうが多く、しばしば攣縮を起こします。
そうすると下位腰椎の屈曲運動が障害され、さらには下位腰椎の過剰な前彎を生じることにつながります。
下位腰椎が伸展位に保持されると脊柱管が狭小化されるため、筋由来のアライメント変化が原因の場合はアプローチすることが求められます。
 
マッケンジー体操

立位から運動内容を決定する

私が臨床で運動の基準とするのは、腰椎の彎曲の度合いです。
通常よりも前彎が乏しい場合は、脊椎伸展運動(マッケンジー体操)を選択しますが、前彎が強い場合は脊椎屈曲運動を選択します。
前彎が強いのに伸展運動を行うと、症状を助長してしまう可能性もあります。
また、私も腰椎前弯が強くて腰痛持ちなのですが、マッケンジー体操を実施すると明らかに痛みが増します。
反対に、身体を丸めるような屈曲運動を実施すると調子がよくなります。正しい姿勢に調整するという意味では、これが簡単な選択基準だと思います。
腰椎前弯の減少腰椎前弯の増強 
腰椎前弯の減少腰椎前弯の増強

痛みの中央化現象

エクササイズの効果判定として、痛みが軽減するかどうかは重要な指標になります。それに加えて、痛みが中央化していくことも改善の予兆とされています。
中央化とは、下肢にまで痛みが広がっている状態から、徐々に痛みがお尻付近まで移動してくる現象をいいます。
この傾向が現れている場合は、エクササイズは有効であると考えられ、継続していくべき指標となります。
1.下肢まで広がっている2.中央化してきている3.中央化の完了
腰痛の中央化1腰痛の中央化2腰痛の中央化3

なぜ中央化が起こるのか

痛みが中央部に移動していく理由について、個人的に推察するなら、椎間板の移動によって神経の圧迫部位が変化していると考えられます。
圧迫部が脊髄の正中部から外側部に移行していると考えるなら中央化を説明できますが、ちょっと厳しい気もしますね。
なぜなら、運動による椎間板の移動に関しては議論の余地があるのが現状ですので、あくまでひとつの指標として捉えるようにしてください。

マッケンジー体操の方法

ステップ①
うつ伏せになり、深呼吸をして完全に力を抜き、2-3分間この姿勢のままでいます。
マッケンジー体操の方法1
ステップ②
両肘が肩の下に来るようにして、前腕で上半身を支える姿勢をとります。この姿勢をとったら深呼吸をして完全に力を抜き、2-3分間この姿勢のままでいます。
マッケンジー体操の方法2
ステップ③
両手を肩の下に置き、手は腕立て伏せをするときの位置に置きます。両肘を伸ばしながら上半身を持ち上げていきます。
痛みに耐えられるところまで上げ、このときに骨盤やお尻、両脚に力が入らないようにします。この姿勢を1-2秒保持してから最初の姿勢に戻ります。
マッケンジー体操の方法3マッケンジー体操の方法4
ステップ④
両腕をまっすぐに伸ばすことができたら、腰がたわんだ状態を確認しながら1-2秒保持します。
ここが最大のポイントで、この姿勢で骨盤とお尻、下肢をリラックスさせて息を大きく吐くと、より効果的に腰がたわみます。
このたわみで痛みの軽減や中央化があれば、この姿勢をもっと長く保っておくようにしていきます。これらの運動を10回1セット、1日6-8セットで実施していきます。
マッケンジー体操の方法5

エクササイズの実施後に運動内容を再検討

指導した運動方法で痛みが増す場合、または痛みが中央から末梢に移動する場合は、運動方法が間違っている可能性があります。
なので、運動を中止するか、運動方向を反対にする必要があります(脊椎伸展運動を実施していた場合は脊椎屈曲運動へ)。
腰痛の原因には多種多様なものが存在しており、特定が困難である場合が多いです。
なので、対症療法にはなりますが、効果的だと考えうる方法から選択していき、効果判定を随時に行っていくことも大切です。
 
 
 

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