腰痛症について正しく理解する
非特異的腰痛症(いわゆる腰痛症)のリハビリ治療について、わかりやすく解説していきます。
腰痛の原因を探る診断チャート
医者が腰の痛みを検査する場合は、一般的に上記の診断チャートに従いながら診断を進めていきます。
まずは単純X線撮影(レントゲン写真)を行い、骨折などの所見が見当たらないか、脊椎に変性がないかを確認するところから始めます。
次に神経症状の有無を確認し、もしも感覚障害や筋力低下、反射異常など、神経障害が認められるようならMRI撮影を行います。
単純X線では神経や軟部組織が映りませんので、MRI撮影にて神経の圧迫(椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症)があるかを確認します。
画像検査で問題が認められず、腰痛を起こしている原因が特定できない場合を非特異的腰痛症といいます。
整形外科疾患以外の腰痛症
前述した診断チャートは、あくまで整形外科疾患であることを仮定した場合の腰痛症の鑑別方法です。
しかし実際には、がんの脊椎転移や内臓障害(腎臓や膵臓)でも腰痛は起こるため、それらの疾患は確実に鑑別する必要があります。
そのために提唱されている方法が「レッドフラッグサイン」であり、以下の7つの項目のどれかに該当するようなら精査が必要となります。
- 20歳以下または55歳以上
- 時間や活動性に関係のない腰痛
- 広範囲に及ぶ神経症状
- 原因不明の体重減少
- 癌、ステロイド治療、HIV感染の既往
- 1ヵ月以上改善のない腰痛
- 発熱
上記に該当する場合は、重篤な疾患が隠れている可能性が考えられるため、画像検査や血液検査などの精査が求められます。
非特異的腰痛症の概要
医師の診察および画像検査(X線やMRIなど)で腰痛の原因が特定できるものを特異的腰痛症、特定できないものを非特異的腰痛症といいます。
腰痛の約85%は非特異的腰痛症に分類されることから、ほとんどの腰痛症は原因組織が特定できない状況にあります。
非特異的腰痛症の80%以上は3ヶ月以内に自然寛解することが知られており、臨床的には「命に危険のない疼痛」と考えられています。
しかし、一旦痛みが落ち着いたとしても、1年以内の再発率は約80%と非常に高いことが報告されています。
腰痛の原因別分類
非特異的腰痛症 | 特異的腰痛症 |
椎間板症 | 腰椎椎間板ヘルニア |
椎間関節障害 | 腰部脊柱管狭窄症 |
仙腸関節障害 | 脊椎圧迫骨折 |
筋筋膜性腰痛症 | 神経由来(脊髄腫瘍、馬尾腫瘍) |
ぎっくり腰 | 内臓由来(腎尿路系疾患、婦人科疾患) |
心因性腰痛症 | 血管由来(腹部大動脈瘤、解離性大動脈瘤) |
腰痛の85%が原因不明な理由
腰痛の85%は原因不明といわれていますが、何故これほどまでに原因がわからないのでしょうか。
その理由のひとつに精密な検査が実施されない背景があります。
医師が腰痛患者に実施する検査は概ね決まっており、①問診、②画像検査(単純X線やMRI)、③徒手的な神経検査の3つです。
しかし、この3つの検査だけで特定できる腰痛症は全体の15%程度であり、その他の原因を特定することはできません。
そして、そこで引っかからない腰痛症は原因が不明とされて、「非特異的腰痛症」という診断名が付きます。
なぜ残りの85%の腰痛の原因を精査して特定しないのかと思ったかもしれませんが、ここにも理由が存在します。
前述した検査で発見できる15%は、重大な症状を引き起こす可能性がある腰痛症であるため、ここは絶対に鑑別する必要があります。
しかし、残りの85%は重大な症状を起こすことはほとんどありませんし、その中の80%は3ヶ月もしたら自然治癒します。
なので、医者が忙しい時間をつかって、わざわざ原因を特定する必要がないというわけです。
それが結果的に腰痛の85%は原因がわからないといわれる所以になっており、腰痛症を軽くみられることにつながっています。
骨盤の歪みと腰痛は関係ない
よくテレビで整体師が骨盤の歪みが腰痛の原因と得意げに語っていますが、実際は骨盤の歪みや脊椎の彎曲と腰痛に因果関係はありません。
そもそも、人間の体は左右対称にはできておらず、最大の臓器である肝臓などの重みによって、ほとんどのヒトの骨盤や背骨は歪んでいます。
歪みと腰痛の関係性については、今より50年以上も前から幾度となく研究されてきており、関係がないと結論づけられています。
なので、腰痛のすべてを骨盤や背骨の歪みに直結しているような治療家には要注意であり、整えたから治るという保証はどこにもありません。
レントゲンを見ても痛いかはわからない
通常、人間の背骨は横から見たらS字にカーブしています。
S字の角度と腰痛の関係性を研究した論文では、どの角度においても腰痛患者の割合は有意差を認めませんでした。
また、事情を知らない医師2人にレントゲン診断を行ってもらった実験では、医者でも背骨を見ただけでは腰痛患者を判別することは不可能でした。
これらの研究結果からも、レントゲンなどの画像診断がどれだけ痛みの評価としては不十分であるかが理解できるはずです。
正常なS字カーブ | 腰椎前弯の低下 | 腰椎前弯の増加 |
問診と徒手検査の重要性
腰痛を診断する上で大切なのは、画像診断よりも問診や徒手検査です。
どのような場面で痛みが出現するか、神経症状はあるか、背骨や筋肉の状態はどうかなど、目で見て触れることがなによりも大切です。
腰に痛みが出現していたとしても、その原因が肩や膝にあることも珍しくありません。
本当に素晴らしい治療家というのは、腰だけを診るのではなく、全身を診ることができる人です。
そのためには、原因となり得る部分を幅広く拾い上げ、どこに一番の問題点があるかを見極めることが大切です。
腰痛と遺伝の関係性
シドニー大学の双子を対象とした研究では、慢性腰痛の有病率は遺伝的に有意であることが示されています。(遺伝率32%)
また、脊柱管の広さなども遺伝することがわかっており、親が腰部脊柱管狭窄症を発生しているケースでは、子供も先天的に脊柱管が狭小化している場合が多いようです。
身長の高い低いが遺伝するように、ヒトの骨格は親からの遺伝的な要因が非常に大きいものです。
ですので、親が腰痛を患っている場合は、子供も腰痛となる可能性は非常に高くなります。
また、脊椎の椎間板は加齢により変性しますが、変性に関与する遺伝子CHST3が発見され、腰痛が遺伝することはさらなる根拠を持つようになりました。
遺伝の影響は必ずしも大きいものではありませんが、事前になりやすい病気を知っておくことで対策をうつことも可能です。
仕事環境で腰痛が出現する
腰痛の発生には遺伝が関係していますが、それよりも重要なのは環境要因です。
職業別の腰痛有病割合においては、作業中に中腰や体幹の回旋を伴う作業、定期的に姿勢を変えることのできない環境などが腰痛の発症頻度を高めることが報告されています。
上の図を見ていただくとわかりますが、椎間板内圧は立位前屈(中腰)や座位前屈で上昇します。
この姿勢は清掃業や運輸業、介護の仕事などでとる場合が多く、これらの仕事では比較的に腰痛持ちが多い傾向にあります。
また、職場における心理・社会的因子が腰痛に深く影響することが報告されており、とくに以下の5つが腰痛発症と強い関連があることを指摘されています。
- 仕事に対する満足度が低い
- 仕事が単調である
- 精神的ストレス(人間関係が悪いなど)
- 仕事量が多い
- 仕事に対する能力の自己評価が低い
しかしながら、腰痛があるからといって気軽に仕事を変えるわけにはいかないので、その環境の中でどのようにコントロールしていくかを考えることも大切です。
年齢や性別で腰痛の原因は異なる
整形外科学会の調査では、日本人の腰痛有病割合は20-60代で25-30%、70代以上では35%となっています。
男女で発生のピークが異なり、男性では30-50代で多いのに対して、女性では60代以降に増加することが特徴的です。
理由として、女性では閉経後に骨粗鬆症が急激に進行しますので、その後に発生する骨の脆弱性や軽微な圧迫骨折が腰痛を増加させています。
男性の場合は、比較的に骨粗鬆症となりにくいことや、仕事をやめてからは重労働が減ることから加齢につれて増加する傾向はありません。
その代わりとして、椎間板の変性が進行しやすい中年期に腰痛が多くなり、椎間板ヘルニアも女性より好発しやすいです。
また、家庭や仕事上での役割やストレスが最も大きくなる30-50歳に発生するケースが多いため、心理面からの影響も推察されます。
腰痛の好発年齢(原因別)
若年者 | 中年者 | 高年者 |
椎間関節障害 | 椎間板ヘルニア | 脊椎圧迫骨折 |
腰椎分離症 | 椎間板症 | 脊柱管狭窄症 |
強直性脊椎炎 | ぎっくり腰 | 腰椎終板炎 |
筋筋膜性腰痛 | 心因性腰痛症 | 筋筋膜性腰痛 |
椎間板ヘルニア | 仙腸関節障害 | 脊椎・脊髄腫瘍 |
筋筋膜性腰痛 | 内臓由来性連痛 | |
血管由来性腰痛 |
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。