2018年8月5日日曜日

腰部脊柱管狭窄症のリハビリ治療

腰部脊柱管狭窄症のリハビリ治療

腰部脊柱管狭窄症の概要

腰部脊柱管狭窄症(水平断面図)1
脊柱管狭窄症とは、脊髄の通り道である脊柱管(椎孔の連続)に狭窄が生じ、中を通過している脊髄や馬尾に圧迫をきたしている状態を指します。
好発部位は、①L4/5、②L3/4、③L5/S1になります。
脊髄はL2の高さで終了し、それより下部は馬尾と呼ばれる神経根の束になるので、腰部脊柱管狭窄症のほとんどは馬尾障害を意味します。
馬尾は血管と共に硬膜によって包まれているため、脊柱管が狭窄するとまず硬膜が圧迫を受け、間接的に中に位置する神経束が圧迫を受けます。

発生原因と症状

腰部脊柱管狭窄症(側方断面図)3
脊柱管に狭窄をきたす原因としては、骨のズレ(すべり症)、椎間板膨隆、椎間関節の肥厚、黄色靭帯の肥厚、姿勢不良などがあります。
姿勢不良以外は加齢的変化であるため、高齢者のほとんどは脊柱管に多少なりの狭窄をきたしているといえます。
画像検査で狭窄が見つかっても、神経症状をきたしていないのなら問題とはならないため、必ず神経症状が出現しているかを確認することが大切です。
神経症状とは筋力低下(下肢の脱力感)や感覚障害(しびれ)、腱反射の低下・消失であり、腰痛や下肢痛などは含まれません。
腰部脊柱管狭窄症に特徴的な間欠性跛行がなく、腰痛や下肢痛が主症状の場合は他疾患を疑う必要があります。

発生頻度と予後

腰部脊柱管狭窄症は50歳以上で約13%に発生しており、10年後の自然経過は「改善3:不変3:悪化4」と報告されています。
前述したように原因の多くは加齢的変化であるため、基本的には自然経過で改善が望めない疾患です。
しかし、改善が3割も存在していることから、診断が間違っている(狭窄が障害の原因ではない)ケースも多く存在していると考えられます。
リハビリで改善できる可能性があるのは腰椎前弯の増強に伴う狭窄例だけであり、その場合は姿勢矯正で間欠性跛行の距離が伸びる場合もあります。

画像診断(MRI)

正常
正常な腰椎MRI
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症のMRI
腰部脊柱管狭窄症(解説)
脊柱管狭窄症のMRI
正常の画像と狭窄症の画像を見比べてみると一目瞭然ですが、このケースでは椎間板膨隆や黄色靭帯の肥厚が狭窄に関与しています。
とくに左側の神経根は通り道がほとんどないため、神経根症状を発生していることが推察されます。

他疾患との鑑別方法

①腰椎椎間板ヘルニアとの鑑別
簡易的な鑑別方法として、腰椎を後屈して症状が増悪するなら脊柱管狭窄症、腰椎を前屈して増悪するなら椎間板ヘルニアの可能性が高いです。
健常者では腰椎を後屈させると脊柱管の断面積が9%減少するのに対して、狭窄症患者では67%も減少することが報告されています。
腰椎の前屈では脊柱管が拡大するので、馬尾の圧迫が解除されて即時に症状が軽快するといった特徴を持ちます。
椎間板ヘルニアが前屈で悪化する理由は、神経根が引き伸ばされることと、椎間板が後方に押し出されるためです。
②慢性動脈閉塞症との鑑別
下肢の慢性動脈閉塞症(PAOD)では、腰部脊柱管狭窄症に特徴的な間欠性跛行が出現するため、しばしば誤診されることがある疾患です。
簡易的な鑑別方法として、脊柱管狭窄症の場合はエアロバイクなら全く問題なく、長い時間にわたって実施することが可能です。
それに対して、PAODは血流障害のために疲労感が強く出現し、長く実施することができません。
PAODの確定診断には血圧脈波検査装置を用いたABI検査が有効で、下肢閉塞性動脈病変に対して確実な診断が可能です。(感度95%:特異度100%)
また、あくまで補助診断ではありますが、足背動脈と後脛骨動脈の触知にて閉塞の可能性を見つけることもできます。
健常者では足背動脈の約10%が欠損し、後脛骨動脈の0.2%が欠損するため、後脛骨動脈の触知有無を優先すべきとの指摘もあります。
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手術療法の適応と効果

腰部脊柱管狭窄症に対する手術の目的は、狭くなった脊柱管を拡げることで、圧迫されている神経を除圧することです。
狭窄症はその半数が手術を必要とする疾患であり、具体的に手術が適応となるケースは以下になります。
  1. 保存療法が無効
  2. 膀胱直腸障害の出現
  3. 明らかな麻痺症状
  4. 100m以下で間欠性跛行が出現
除圧術から平均12.8年後に行った追跡調査では、患者の69%が機能面において良好な状態を保っていました。
再手術を受けていたのは約10%で、発症してからの罹病期間が長すぎると十分な改善を得られないことが報告されています。
また、予後不良を予測する最も重要な因子は「腰痛の重症度」であり、腰痛が主症状の場合は脊柱管狭窄症以外の要因が考えられます。
椎弓切除後の脊椎支持性に関しては、通常、椎間関節の骨切除は2/3以内にとどめるため、不安定性は生じないとされています。

リハビリテーション

運動療法や物理療法に関しては、文献のシステマティックレビューにて十分なエビデンスを認めなかったとしています。
原因を考えると理解もしやすいですが、黄色靭帯の肥厚や椎間板膨隆がリハビリで治ることはありません。
そのため、リハビリはあくまで二次障害の予防を図ることを目的とし、生活指導などを交えながら実施することが大切です。
唯一、症状の緩和が期待できるのは腰椎の過度な前彎が狭窄を増強している場合であり、その際は姿勢矯正による効果が期待できます。

腰椎過前彎の矯正トレーニング

腰椎前彎と脊柱管狭窄1
骨盤の前傾は腰椎の前彎を増強させて脊柱管を狭窄させるため、過度な前彎は症状を憎悪させる原因になります。
前彎を増強させる因子として、①多裂筋の過緊張、②腸腰筋の過緊張、③大殿筋の弱化が挙げられます。
①多裂筋
多裂筋の起始停止
多裂筋は硬くなりやすい筋肉であるため、攣縮や短縮が存在していると骨盤を前傾させ、腰椎の屈曲を妨げる原因になります。
攣縮に対するリラクゼーションとして、腹臥位で多裂筋の収縮と弛緩を繰り返して緩める方法があります。
短縮に対するストレッチ方法として、仰臥位から両膝を抱え込むようにして腰椎を屈曲させていきます。
多裂筋のストレッチ
②腸腰筋(腸骨筋・大腰筋)
腸骨筋の起始停止
大腰筋の起始停止
腸腰筋は硬くなりやすい筋肉であるため、攣縮や短縮が存在していると骨盤を前傾させ、腰椎の前彎を増強させる原因になります。
攣縮に対するリラクゼーションとして、仰臥位にて腹部を押圧するようにして大腰筋をマッサージする方法があります。
短縮に対するストレッチ方法として、片膝立ての姿勢から重心を前方に移動していき、股関節伸展を引き出すようにしていきます。
ケンダルの姿勢分類.007
③大殿筋
大殿筋の起始停止
大殿筋は弱化しやすい筋肉であるため、適度な緊張が発揮できていない場合は骨盤を前傾させる原因となります。
筋力トレーニングの方法として、仰臥位でのブリッジングが有効で、膝を深く屈曲することで大殿筋を集中的に鍛えることができます。
ケンダルの姿勢分類.018

二次障害の予防

腰部脊柱管狭窄症の患者では、間欠性跛行の出現によって活動量が著しく低下するため、心肺機能や筋力低下などの二次障害が現れます。
それらを予防するためにも、症状を増悪させない範囲で積極的に有酸素運動や筋力トレーニングは実施していくべきです。
お勧めの方法はエアロバイクであり、苦なく実施できるために筋力を強化するうえでも役立ちます。

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